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(書評)氷の秒針

著者:大門剛明

氷の秒針氷の秒針
(2012/06/20)
大門 剛明

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平成22年4月、殺人事件の公訴時効が廃止された。それは、15年前、長野県内で起きた2つの殺人事件の運命を分ける。2月に松本市で起きた一家殺人は時効を迎え、5月に主婦が殺害された事件の時効は亡くなった。事件で妻を喪った時計修理技能士である俊介は、松本市の事件の遺族・薫を気にかけていた。そんな中、時効を迎えた松本市の事件の犯人が自首をし……
うーん……なんか、「狙い過ぎ」感が残る。
著者の作品らしく、本作も司法の問題が題材。この作品のテーマは「時効」。同じ年に起こった事件でありながら、法改正のタイミングによって分かれてしまう運命。そして、罪種により異なる時効。それによっても……。しかし、一方で、遺族の苦しみというのは変わらない。勿論、時間の経過によって薄れていく、という部分がないではない。だが、それも、ちょっとしたきっかけで復活してしまう極めて脆いバランスの上にあるもの。その上で、遺族は、日常生活を送っていかねばならない。
さらに、決定的な証拠がある事件ならばともかく、最後は犯人の供述ひとつに掛かってしまうことのある事件。時効が廃止されたとしても、そこまで疑惑を持たれながらも逃げた犯人は、そのままでは捕まらないことを知っている。あとは、犯人の良心に訴えかけるのみ。それすら、他人頼み……
そういう問題を、時効成立後に自首した犯人が殺害された、という事件の中で描いていき、興味深く読むことが出来た。メインそのものは非常に面白い。松本市の犯人を殺した人間の、きっかけとなった一言っていうのは、全てを象徴していると思うし。
にも関わらず、というのは、終盤に無理やり感動の結末へと展開させてしまったこと。主人公である俊介と妻、そして犯人……それらの結びつきがあって犯人は逮捕されたのに俊介は苦しんだ……のに手紙一枚で俊介はいきなり改心。しかも、何か整合性がおかしくなっているような。無理やりにハッピーエンドにしたような感じがしてしまった。
テーマが面白かっただけに、結末で脱力感を覚えざるを得なかった。何かもったいない印象。

No.3038

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