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(書評)空耳の森

著者:七河迦南

空耳の森 (ミステリ・フロンティア)空耳の森 (ミステリ・フロンティア)
(2012/10/30)
七河 迦南

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早春の山に入った尚子と正彦。だが、途中で尚子は、足をくじいてしまい、正彦は一人、山を降りて救助を呼ぶことに……。突然に崩れた天気の中、二人をつなぐのは無線機のみ……(『冷たいホットライン』)
など、全9編を収録した短編集。なんか、これ、事前情報をあまりいれてはいけない作品のような気がする。まぁ、著者の作品は……とだけ書いておこう。
なので、そういう部分が目立つ話はせずに印象に残ったエピソードを。
まず、1編目であり、冒頭に内容の紹介を書いた『冷たいホットライン』。山小屋に残された尚子と、助けに下山した正彦。二人を結びつけるのは無線機の声だけ……というのが続くのだけど、これがミステリ? という感じではある。最後にひっくり返しはあるのだけど、何と無く煮え切らない……と思ったら、ちゃんと伏線があった。ある意味、微妙なひっくり返しの仕方が二人の関係、人間性を感じさせてくれた。
2編目の『アイランド』は、孤島で暮らす幼い姉弟の物語。こちらは逆に、色々と違和感があるので、ひっくり返しそのものは予期できる作品であると思う。ただ、「実は!」というところを、こういう風に描いていくのか、というのに感心させられた。
個人的に好きだったのは『さよならシンデレラ』。地元でも知られた不良少女・リコが強盗を働いた。そうすれば、リコは学校を退学になってしまう。そういう噂が立つ中、小学生時代にリコらと「少女探偵団」を作っていた少年・マサトが、真相を……。強盗事件の謎解き、という部分だけでは小粒なのだけど、その上でのひっくり返しに何とも切ない気分にさせられる。
……と、こうやって読んでいくと、だんだんと事件の中で描かれる人物に共通点とかがあることがわかってくる。そして、そういう人物が出てくる場所というと……(ただ、ひたすらに遠まわしに書いてみた)
ファンサービスとしてやりたいことはわかるし、それぞれのエピソードを上手くまとめている、というのは確か。ただ、正直なところ、ちょっとやりすぎな感もあったり。というのは、本作についてはそれをメインにした感が合って、各編のひっくり返し方とかがワンパターンになっているように感じたため。過去の作品を大事にする、というのは良いのだけど、一時期の辻村深月作品同様、過去作品を知らないと十全に楽しめない、というのはちょっともったいない気がする。

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  •  「空耳の森」七河迦南
  • ビジネス本の紹介ばかり書いていたら、読んでくださる方が激減してしまったので、以前どおり、小説やこどもの本の紹介メインのブログに戻していこうと思います。 小説以外の、自分
  • 2013.03.26 (Tue) 22:12 | 心に残る本