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(書評)雪の翼のフリージア

著者:松山剛

雪の翼のフリージア (電撃文庫)雪の翼のフリージア (電撃文庫)
(2012/09/07)
松山剛

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翼を持つ人々が住まう世界。その世界で、天才義翼職人と呼ばれるガレットの元に一人の少女が訪れる。「義翼を作って欲しい」という彼女は、「飛翔士」によるレース「飛翔」において天才と呼ばれながらも、事故によりその翼を失ったフリージアだった。義翼で、再び飛翔に出場したい、という彼女の依頼を一度は断るガレットだったが、彼女の熱意に負けて……
同著者の『雨の日のアイリス』もそうなのだけど、面白いことは面白いのだけど、「ここをこうしたら……」という部分が目に付いてしまう。何か、凄くもったいない感じがするのだ。
物語の展開は、かなりシンプルな、そして、真面目なスポ根もの。冒頭に書いたように、天才飛翔士と呼ばれながらも、翼を失ったフリージアが、ガレットの義翼を身につけて、もう一度、頂点を目指す、というもの。身体との一体感のため、裸になって型を造らねばならない、なんていうところで恥らったり、いざ、義翼が出来ても本当の翼とは違う感覚に悪戦苦闘したり……というようなところは上手くツボを抑えていて安心して読めるし、何より、そのような中でも復帰を目指すフリージアの熱意が感じられるのが良い。
一方で、実はガレットは、というと、かつてのトップ飛翔士のオスカーであるのだが、それを隠したまま言い出せない。そして、そんな縁で、現在のトップ飛翔士であるグロリアとともにある調査を請け負うことで、フリージアにショックを与えてしまう……。ちょっとした行き違いと、そこにある恋愛感情の芽みたいな部分も、ありがちではあるけど上手いな、と感じる。
基本、どん底からヒロインが這い上がっていく話、ということもあり明るく読めたのも大きい。
ただ、それだけにもうちょっと分量とかがあって、ここのところを補充して欲しい、と感じる部分があるのだ。その最大の場所が、後半、話のキーポイントとなる「飛翔士狙撃事件」の扱い。フリージアが翼を失う理由となった事件だし、フリージア、ガレット、グロリアを結びつける事件でもある。そのため、かなり尺を割いているのに、その犯人捕縛とかは全く描写無く終了。それなら、ここまで尺を入れる必要ないんじゃないか? とどうしても思う。逆にやるなら、もっと徹底的に書いて欲しかった。他にも、フリージアが没落貴族の出身で、その復興を目指し、下働きをしている妹を迎えに行くため、というような設定もあまり活きているとは言いがたい。折角、設定を作ったのなら、そういうところもあればよりよかったのに、と感じるのだ。
悪くない、というか、面白い。面白いのだけど、上記の理由で、もったいない、という感想が出てしまう不思議な作品。

No.3059

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