fc2ブログ

(書評)スポーツの世界は学歴社会

著者:橘木俊詔、齋藤隆志

スポーツの世界は学歴社会 (PHP新書)スポーツの世界は学歴社会 (PHP新書)
(2012/11/16)
橘木 俊詔、齋藤 隆志 他

商品詳細を見る


スポーツの世界は、学歴ではなく、実力がものを言う。そういわれていたが、その世界に変化が起きている。大卒の割合が増えてきているのだ。そして、彼らの方が、若くしてプロの世界に飛び込んだ者よりも成功の可能性が高い。企業社会と同様、学歴がものをいう、ということを明らかにする。
という風に説明されている。
まず、書籍そのものについて、面白いか、面白くないか、で言うと、面白いところもある……という感じだろうか。例えば、分析とかを加えていない、単純なデータとしての数字。2012年初場所段階で、大相撲の幕内力士の44%が大卒、とか、1936年以降のプロ野球の監督の67%が大卒、とか、そういうのは雑学として面白い。また、大学野球が出来た当初のエピソードとか、学生スポーツの歴史だとか、そういうのも簡単に纏められており、それも興味深く読むことが出来た。
しかし、肝心の、データ分析のところが、どういうにも弱いのだ。
まず一つ目に、前提となるデータそのものが怪しい、という点。プロ野球では、ドラフト制度が始まった1965年入団の選手から、2010年に引退した選手のデータを下に分析をするのだが、明らかにデータに不備のあるものがある。例えば、引退後の進路について、だが、調べたソースはWikipediaである。しかも、この調査対象となる選手のうち約30%はわからなかった、となる。3分の1近くがわからないのに信頼できるのだろうか? 他にも、NHKの解説者の中に「学歴不明」がいたりとかどうにも、と感じるところがしばしばある。
二つ目に、そのデータについて、本書では「大卒は、高卒より1軍の試合に出場する率が9%高い」とかという形で、両者の違いしか出てこない。いや、高い、というのを疑っているわけではないのだが、「高卒が10%で、大卒が19%」なのか、「高卒が50%で、大卒が59%」なのか? というような違いというのが気になるところ(もっとも、単純な計算ではないので、出してもわかりづらいだけ、かも知れないが)。折角のデータなのに、本当に最小限しかないので、読者がそれ以上、考えて楽しむことが出来ないのだ。
そして、それ以上に、疑問を覚えるのは、一般社会ではそうだから、という前提があるのはわかるのだが、妙に大卒が有利だ、と強調している言い回しが多いこと。これは、スポーツを引退した後についての部分で多く、引退後に民間企業や公務員になった率は高卒でも大卒でも差がなかった、という。ところが「昇進や収入で、学歴や学校暦に差が出ることが考えられる」と締めてしまう。まぁ、勿論、否定はできないのだけど……調べてから書こうよ、そういうのも、と思わずツッコミを入れたくなる。
何というか、研究者が、ちゃんとした研究をしてまとめた書籍、という評価は出来ない(上に書いたようなデータの不備などが多すぎる点から) そういう部分よりも、学生スポーツの歴史とか、個別の選手のエピソードとか、そういうところに面白みを感じさせる書であった。

No.3063

スポンサーサイト



COMMENT 0