著者:辻村深月
全5編の作品を収録した短編集。
直木賞受賞作で、読む前に、色々な方の感想を見ていると、「これまでの作品と違う」というようなものを目にしていたのだけど、いざ読んでみて思うのは、違うといえば違うけど、同じと言えば同じ、という感想だったりする(笑) デビュー作からして、新書版で3巻という長編作品を書いていた著者だけに、嫌な雰囲気だとかも作中でじっくりと熟成させるように描いていたのだが、本作は1編40頁程度の短編の中に凝縮しているように感じた。そして、もうひとつが、事件そのものというよりも、その周辺で巻き込まれた人間の心情を描写したもの、というか……
1編目の『二志野町の泥棒』。小学校3年のとき、近所に越してきた同級生の律子。可愛いし、運動神経も良いその律子と仲良くなるミチルだったが、彼女の母親をめぐってある噂があった……。田舎の、良くも悪くも濃密な社会における人間関係。その中で、問題のある人と認識されながらも法では裁けない中で生きていく律子たちの家族。それでも、変わらずに接しようとしたのに……。別にミチルが何か悪いことをしたわけではない。けれども、突然、疎遠になってしまわざるを得ないミチルの心情というのが生々しく描かれていると感じる。
『石蕗南地区の放火』は、さらに生々しい。結婚しろ、しない、なんていう田舎のコミュニティでありがちなやりとり。その中で、かつて、少しだけ関係を持った人間が起こした事件。ただでさえ田舎のコミュニティで肩身の狭い思いをしているのに、そこでますます……という憂鬱さ……。主人公の思いは自意識過剰、と言えばそれまでなのだけど、田舎の嫌な意味でのネットワークの強さを知っているだけに苦笑い。
ただ、全体を通すと、救われないようなエピソードがあるのだけど、最後の『君本家の誘拐』は、育児ノイローゼになって起こした事件のあと、少しだけ救いがあるように感じた。徹底的に追い込まれたとは言え、主人公・良枝の行動は褒められるものじゃない。けれども、重大なことになるその前で踏みとどまることが出来た。そして、私が読んだ限りでは、良枝自身が一区切りをつけることが出来たように思えたから。それがあるなら……と思うのだ。
ともかく、最初にも書いたように、作中で熟成されていく嫌な雰囲気、というよりも、いきなり完成系で嫌な雰囲気に包まれた。そんな感じがした作品集だった。
No.3065

![]() | 鍵のない夢を見る (2012/05/16) 辻村 深月 商品詳細を見る |
全5編の作品を収録した短編集。
直木賞受賞作で、読む前に、色々な方の感想を見ていると、「これまでの作品と違う」というようなものを目にしていたのだけど、いざ読んでみて思うのは、違うといえば違うけど、同じと言えば同じ、という感想だったりする(笑) デビュー作からして、新書版で3巻という長編作品を書いていた著者だけに、嫌な雰囲気だとかも作中でじっくりと熟成させるように描いていたのだが、本作は1編40頁程度の短編の中に凝縮しているように感じた。そして、もうひとつが、事件そのものというよりも、その周辺で巻き込まれた人間の心情を描写したもの、というか……
1編目の『二志野町の泥棒』。小学校3年のとき、近所に越してきた同級生の律子。可愛いし、運動神経も良いその律子と仲良くなるミチルだったが、彼女の母親をめぐってある噂があった……。田舎の、良くも悪くも濃密な社会における人間関係。その中で、問題のある人と認識されながらも法では裁けない中で生きていく律子たちの家族。それでも、変わらずに接しようとしたのに……。別にミチルが何か悪いことをしたわけではない。けれども、突然、疎遠になってしまわざるを得ないミチルの心情というのが生々しく描かれていると感じる。
『石蕗南地区の放火』は、さらに生々しい。結婚しろ、しない、なんていう田舎のコミュニティでありがちなやりとり。その中で、かつて、少しだけ関係を持った人間が起こした事件。ただでさえ田舎のコミュニティで肩身の狭い思いをしているのに、そこでますます……という憂鬱さ……。主人公の思いは自意識過剰、と言えばそれまでなのだけど、田舎の嫌な意味でのネットワークの強さを知っているだけに苦笑い。
ただ、全体を通すと、救われないようなエピソードがあるのだけど、最後の『君本家の誘拐』は、育児ノイローゼになって起こした事件のあと、少しだけ救いがあるように感じた。徹底的に追い込まれたとは言え、主人公・良枝の行動は褒められるものじゃない。けれども、重大なことになるその前で踏みとどまることが出来た。そして、私が読んだ限りでは、良枝自身が一区切りをつけることが出来たように思えたから。それがあるなら……と思うのだ。
ともかく、最初にも書いたように、作中で熟成されていく嫌な雰囲気、というよりも、いきなり完成系で嫌な雰囲気に包まれた。そんな感じがした作品集だった。
No.3065

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