著者:北森鴻
競り市で手に入れた一枚の魔鏡。競りの前と後ですり替っていたそれは、宇佐美陶子の心を深く掴む。しかし、その競りに参加していたひとりの男が電車に飛び込んで命を落とし、出品者もまた……。さらに、陶子自身が贋作作りの汚名を着せられ、故物商の鑑札を剥奪されてしまい……
「冬狐堂」シリーズの第2長編。
ううむ……こう来たか……。
前作に当たる『狐罠』というのは、目利き殺しの罠によって贋作をつかまされた陶子が、意趣返しをたくらんで……という一種のコンゲーム的様相の強い作品。その中で、旗士としての生活であるとか、はたまた、骨董商の世界について、なんていう薀蓄が語られる、という性格の強い作品であった。
対して、本作の場合は、そういう世界からちょっと離れ、むしろ、「蓮丈那智」シリーズ的な様相を強く持っている。……というか、蓮丈那智自身も物語に大きく関わって、そちらのシリーズの短編集『凶笑面』に収録されたエピソード『双死神』の裏側を描いている(むしろ、こちらが本編で、『双死神』はサイドストーリーのような印象)
物語の中心となるのは、やはり、そのすり替えられていた鏡。何か危険な予感がする。それでも魅せられた代償は重くのしかかる。一体、何のために自分は罠にかけられたのか? そして、それをたくらんだものは何者なのか? 常に、何者かが後ろでてぐすねを引いて待っているような状況でスリリングに展開していく。しかも、そこに南北朝時代、明治維新なんていうものをめぐる歴史上の仮説が登場し、文字通り、壮大な謎を形成していく。その辺りは、まさしく蓮丈那智シリーズの雰囲気であり、また、歴史ミステリというような味わいをもたらしている。
本作の場合、作中にしばしば、香菜里屋が登場したり、はたまた、別作品の主人公も大きく関わったり(私は未読)、で、先の蓮丈那智を含め、著者の作品のオールスター勢ぞろい、という趣である。そして、その謎の広げ方なども、それぞれの分野を上手く組み合わせているのだろう、というのが感じられる。主人公は間違いなく陶子なのだが、そこに留まらない、と感じるのはそのためだと思う。その作品を、どういう風に表せば良いのかちょっと迷ってしまう。
とりあえず、他シリーズを読んでいなくても楽しめる作品であるのは確か。私自身が楽しんだわけだし。でも、登場する他シリーズの作品も一通り読んでいたら、もっと「この辺りは……」と感じられたのではないか。そんなことを思わずにはいられない。
No.3068

![]() | 狐闇 (講談社文庫) (2005/05/13) 北森 鴻 商品詳細を見る |
競り市で手に入れた一枚の魔鏡。競りの前と後ですり替っていたそれは、宇佐美陶子の心を深く掴む。しかし、その競りに参加していたひとりの男が電車に飛び込んで命を落とし、出品者もまた……。さらに、陶子自身が贋作作りの汚名を着せられ、故物商の鑑札を剥奪されてしまい……
「冬狐堂」シリーズの第2長編。
ううむ……こう来たか……。
前作に当たる『狐罠』というのは、目利き殺しの罠によって贋作をつかまされた陶子が、意趣返しをたくらんで……という一種のコンゲーム的様相の強い作品。その中で、旗士としての生活であるとか、はたまた、骨董商の世界について、なんていう薀蓄が語られる、という性格の強い作品であった。
対して、本作の場合は、そういう世界からちょっと離れ、むしろ、「蓮丈那智」シリーズ的な様相を強く持っている。……というか、蓮丈那智自身も物語に大きく関わって、そちらのシリーズの短編集『凶笑面』に収録されたエピソード『双死神』の裏側を描いている(むしろ、こちらが本編で、『双死神』はサイドストーリーのような印象)
物語の中心となるのは、やはり、そのすり替えられていた鏡。何か危険な予感がする。それでも魅せられた代償は重くのしかかる。一体、何のために自分は罠にかけられたのか? そして、それをたくらんだものは何者なのか? 常に、何者かが後ろでてぐすねを引いて待っているような状況でスリリングに展開していく。しかも、そこに南北朝時代、明治維新なんていうものをめぐる歴史上の仮説が登場し、文字通り、壮大な謎を形成していく。その辺りは、まさしく蓮丈那智シリーズの雰囲気であり、また、歴史ミステリというような味わいをもたらしている。
本作の場合、作中にしばしば、香菜里屋が登場したり、はたまた、別作品の主人公も大きく関わったり(私は未読)、で、先の蓮丈那智を含め、著者の作品のオールスター勢ぞろい、という趣である。そして、その謎の広げ方なども、それぞれの分野を上手く組み合わせているのだろう、というのが感じられる。主人公は間違いなく陶子なのだが、そこに留まらない、と感じるのはそのためだと思う。その作品を、どういう風に表せば良いのかちょっと迷ってしまう。
とりあえず、他シリーズを読んでいなくても楽しめる作品であるのは確か。私自身が楽しんだわけだし。でも、登場する他シリーズの作品も一通り読んでいたら、もっと「この辺りは……」と感じられたのではないか。そんなことを思わずにはいられない。
No.3068

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- 先日読み終えた北森鴻さんの冬狐堂を主人公にした作品に続編があると知って、読んでみました。 前作でも贋作事件に巻き込まれた陶子でしたが、今回はある事件に関わったことをき
- 2013.01.27 (Sun) 23:14 | 日々の記録