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(書評)罰金

著者:ディック・フランシス
翻訳:菊池光

罰金 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)罰金 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1977/01)
ディック・フランシス

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「記事を金にするな。絶対に自分の魂を売るな」 酩酊した競馬記者・バートはそう忠告した直後、ビルの7階から転落して死亡した。ジェイムズは、その言葉の意味をはかりかねていたが、バートが長期予想で本命としていた馬が、直前になると出走取り消しをしていたことを知る……
フランシスのデビュー第7作。
正直、前作の『血統』でちょっと評価を落としてしまったのだけど、アメリカで文学賞を受賞した本作でしっかりと盛り返してくれた感じ。面白い。
物語は、冒頭に書いたように、長期予想によって本命となった馬がことごとく、直前で取り消しをしていたことで何かあると気づいたジェイムズが、バートの最後の本命馬を無事出走させるように奮闘する、というもの。日本の競馬では、出走馬が確定する前日、(一部レースでは)前々日発売だけの馬券。しかも、取り消しとなれば、掛け金は返還される。しかし、ブックメーカーの制度が一般的なイギリスでは、そうはならない。長期予想については、早い段階で購入し、出走にこぎつけられるかどうかも対象になるから。それを逆手にとって……。
まず、そういう制度の違いそのものが印象に残る。しかも、そこに関する会話が印象深いのは、「アメリカのように、レース当日に競馬場でしか賭けられないようにすれば良い。そうすれば、入場料なども増えて、賞金も増える」なんてやりとりがあること。本当に、ちょっとした会話でしかないのだけど、自らが騎手であり、競馬記者もしていた著者の実感のこもった会話じゃないかと思う。
そして、もうひとつの魅力が、主人公・ジェイムズの人間くささだと思う。フランシス作品の主人公は、事件の中、困難があっても決して諦めない、というのが言われる。ジェイムズについても、それは確か。でも、彼の場合、ただ意地がある、とか、そういうところでないので非常に感情移入しやすい。彼は、全身が麻痺した妻を養っており、まず、スクープを取って金が欲しい、という欲求がある。妻を愛しているが、しかし、何も出来ない妻がいることでほかの女性とも関係を持ってしまう。そして、そのことが「敵」の脅迫材料にもなる……。暴力に屈しない、ではなく、一度は暴力に屈しながらも裏をかこうとあがくとか、凄く「普通の人間」という感覚が残るのが何よりもこの作品の魅力ではないかと思う。
引っ張った割に、黒幕がアッサリと退場してしまうとかは、もうちょっとあっても良かったかも、とは思ったものの、主人公の人間くささが非常に良い味を出しており、最後まで楽しく読むことができた。
しかし、正直、本作の日本語タイトルである『罰金』は誤訳じゃなかろうかと思う。原題は『Forfeit』で、その意味を考えると「没収」や「(権利の)剥奪」の方があっていると思うので。

No.3070

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