(書評)骨折

著者:ディック・フランシス
翻訳:菊池光

骨折 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-11 競馬シリーズ)骨折 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-11 競馬シリーズ)
(1978/01/24)
ディック・フランシス

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二人とも、白いゴムのマスクをつけていた。入院中の調教師である父に代わり、ニールはその二人組に誘拐されてしまう。間違いであったことで殺害されることを恐れ、父の入院中、調教をしていると名乗ったニールにボス・エンソは、厩舎を破滅させたくなければ、ダービイの本命と目されるアークエインジェルにある騎手を乗せよ、と要求する。その騎手とは、エンソの息子・アレクサンドロ……
なんて無茶振り!!
読んでいて思わずツッコミを入れてしまった。翻訳の関係で「ダービイ」となっているのは、競馬において、最大のレースといわれるダービー、それも、発祥のレースであるエプソムダービーになるわけだが、アマチュアレースで何度か勝ったことがある(勿論、まだ競馬の騎手ですらない)息子を騎乗させろ、っていう要求から始まるのだから、凄まじい話。ところが、そこから実に味わい深い物語になっているのが本作だと思う。
というのは、物語の主軸となるのは、ニールと調教師である父。アレクサンドロと父。二組の父子関係というものだから。
父の暴力的な行為によって、ニールらの厩舎へと現れたアレクサンドロ。酷く傲慢で、世間知らずなところがありつつも、ニールらとのやり取りの中で次第に、その心に抱えたものを見え隠れさせざるを得なくなっていく。父から、何でも与えられるが、自分の要望を聞けば、父の思うとおりのやりかたでしか与えられない。話を聞いてもらえないアレクサンドロ。そう、事実上は会話することができない父子関係が。
一方、ニールは、そんなアレクサンドロの父子関係を見抜き、騎手としての資質を持ち合わせた彼を何とかしようとしつつも、実の父とは折り合いがつかない。16歳のとき、父の元を逃げ出したニールを、父は常に見下し、評価をしない。アレクサンドロとは違い、純粋に話そのものが成り立たない関係。そして、だからこそ、なのか、アレクサンドロへの対応が、彼自身が父親になったように感じてしまう。
両者の関係というのは、どちらも極端ではある。しかし、ある意味、父親と息子という関係において普遍的にあるものを描いているのではないか、とも思う。正直に言うと、自分自身のことでも思いつくことがあったので。
一応、エンソの狂気の理由などには説明がつけられている。しかし、最早、それは些細なことと言えるだろう。
ミステリー要素というのは皆無に近いが、しかし、味わい深い2組の父子の物語として楽しむことが出来た。

No.3089

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