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(書評)ロスト・ケア

著者:葉真中顕

ロスト・ケアロスト・ケア
(2013/02/16)
葉真中 顕(はまなか・ あき)

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2011年12月。地方裁判所でひとつの死刑判決が下った。前代未聞、43件もの殺人の被告に対する判決としては、当然のもの。しかし、それは様々な問いを生むことになる。その事件とは……
第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
うーん……
物語はプロローグで書いたように、43件もの殺人を行った「彼」の判決、というところからさかのぼって、06年に遡り、様々な人々の日常と、「彼」の犯行が描かれていく、という形式で作られる。
物語のテーマは、「介護問題」。シングルマザーであり、認知症の母親の介護に追われ、肉体的、精神的、そして、経済的にも追い詰められている羽田洋子。事業に成功した父を、高級介護施設へと入れ、自らも検察官として邁進する大友。大手介護事業者の営業マンである佐久間。その介護施設の末端で働くヘルパーの斯波。先に書いたように、羽田は、自らの母親のことで精一杯の、「地獄」とも言える状況にあるし、介護報酬の見直しなどでおきたトラブルに佐久間は追われることになる。そして、そんな本社とは裏腹に、決して待遇がよいとはいえない状況で斯波らは、日々、働いている……
使いづらい介護保険の実態。劣悪な介護の現場。そして、医療・福祉費用の抑制の結果、そもそも、「商売」として成り立たない状況へと追い詰められていく介護業界の構造的問題。そういうところをアピールしたかった、というのは非常によく伝わる。
「なぜ死なないのか?」「死んでくれれば……」 これらのある種、本音は真摯に伝わる。また、伏線などの回収も手堅くされている。
……ただし……物語としての面白みはちょっと微妙。
というのは、そもそも、物語の中心となる部分が、実際に06年にコムスンの問題そのものであるし、介護の現場での問題(賃金とか、はたまた、肉体的なものとか)についても、すでに数年前から指摘されているもの。私は、それほどこの手の問題に詳しくはないが、それでも07年に刊行された『働きすぎる若者たち』(阿部真大著)などで、低賃金で過酷な労働。また、やる気がある人ほど、身体を壊して退場するリスクも高まる、などというのは指摘されており、それをそのまま描かれた、というような感じがしてしまうのだ。また、中越地震による刈羽原発の事故とか、物語にあまり意味を成していないものを入れる必要性の感じられない部分もちょっと引っかかった。
それでも書かねば、という意欲は感じる。ただし、現実の事件をそのままにトレースして、というのではない方が面白く読めた(興味を引かれた)のではないか、とも感じる。

No.3142

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COMMENT 2

苗坊  2013, 06. 01 [Sat] 23:00

こんばんは。
冒頭が興味を引かれるだけに展開がもったいなかったなと思いました。
どうせならもうちょっとオリジナリティがあったほうが良かったですよね。私、コムスンの事すっかり忘れて始めは読んでいたのですが、途中で諸々気が付いてちょっとうーん・・・と思ってしまいました。

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たこやき  2013, 06. 16 [Sun] 18:14

苗坊さんへ

コムスン事件も既に6年以上前、ですからね……
私も、読みながら「こんな事件あったなぁ……どこの会社だっけ?」としばらく考えて「そうだ!」という感じになっていきました。
実際の事件をトレースするのであれば、ノンフィクションの形でも良いわけですし「小説だからこそ」のものが欲しかったです。
(個人的に、その点で久坂部羊氏の『廃用身』は凄い作品だと思っています)

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