著者:佐藤青南
警視庁捜査一課に所属する巡査部長・楯岡絵麻。自称・28歳の彼女は、巡査部長という立場でありながら、ベテラン捜査官らを差し置いて、取調官を任されている。彼女の武器は、行動心理学を用いて、相手のしぐさや行動パターンから嘘を見破る技術。「エンマ様」と呼ばれる彼女が、被疑者と向き合うとき……。
物語は基本的に、取調室という場所でのやりとりのみで進行する連作短編集。容疑者として取調室へとつれてこられた相手。そんな人々を相手に、最初は、ただの雑談から入り、その中で相手のクセなどを把握すれば、そこから一気に攻撃へと転じていく。
「大脳辺縁系に聞いているの」
ある意味、本作のきめ台詞とも言える言葉。言葉ではいくらでも嘘をつくことが出来る。けれども、嘘をつくとき、人間は必ず、何らかのクセを示す。序盤のただの雑談の中でクセを見つけ出してから、攻撃へ転じたときの迫力は半端なく、その薀蓄だけでもかなり楽しめた。
また、1編目では、文字通り、絵麻のパターンを示し、2編目以降、(絵麻が相手と知っていたかのように)その心理的な部分の裏をかくようなトリックを示して対抗する、というのが面白かった。取調室でのやりとり、というシチュエーションでありながら、パターンも色々とあるとか、そういうところは見事。
ただ、最後まで読んで思うのは……
あれ? ここで終わっちゃうの?
そんなことだったりする。
というのは、物語は毎回、事件が解決した後、祝宴という形になるのだが、底の中で、必ず、主人公(?)の絵麻が、自分が現在の立場になるまでのことを回想するシーンが入るため。そして、その背景には、過去のある事件というのが大きく横たわっている、というのも示される。
ということは、その事件が最後に来る、と思うでしょ?
ところが、その点については、ほとんどスルーされた状態で終わってしまう。なので、最後の最後に、どうにも居心地の悪さのようなものを感じてしまった。シリーズ化前提……なのかな? それでも、少しは何か一区切りはついて欲しかったのだが。
全体を見渡すと、シチュエーションが限定されているにもかかわらず、様々なバリエーションが用意されているなど、なかなか楽しむことが出来た作品。けれども、その背後とか、ちょっと消化不良のところもあった、というような評価になる。
No.3199
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