(書評)沈黙の町で

著者:奥田英朗

沈黙の町で沈黙の町で
(2013/02/07)
奥田英朗

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中学2年の男子生徒が、部室棟から転落死した。転落した現場であるその屋上には、5人分の足跡があり、死亡した少年と同じテニス部の部員4人が、彼をいじめていたことを認めたため、14歳になっていた2人は傷害容疑で逮捕、13歳の2人は児童相談所へと送致となった。しがらみの多い地方都市に降って沸いた騒動に……
なんていうか……読んでいて救われない話。物語は、冒頭に書いたような形で始まる。死んだ少年に対するイジメの存在の発覚。そのイジメをした存在として4人の少年が逮捕される……までは、ポンポンと進んでいくのだが、そこから物語はだんだんと、それぞれの思惑に絡めとられていく。
イジメで逮捕、補導された者たちの親たち。しかし、逮捕と補導との間にある大きな差。さらに、金のある者とない者。同じ「加害者」家族の中にある不公平感。一方で、被害者の母は、少年法などの中で真相が見えない中で苦しみ、さらに、それを利そうとする身内の動きにまで翻弄されてしまう。その間で、対処に苦慮する教師たち。一番、中立的なのは、事件を取材する記者であるが、しかし、それでも限界や要望の中で右往左往せざるを得ない。何と言うか、それぞれの思惑が絡み合って身動きが取れなくなっていく、というのは著者の初期の作品『邪魔』などを彷彿とさせる。ただ、『邪魔』は、どちらかと言うと、「物語」としてのフィクション方向に動くのに対し、あくまでも本作は現実的なところで進んでいくのが違いと言えるか。
そして、だんだんとしがらみに絡みとられていく中で描かれるのは、被害少年の日常。イジメ自殺の当事者、殺人の被害者、傷害致死の被害者……これがどれに当たるのか、というのがわからないが、一般的にその存在は「不可侵」の存在となる。しかし、実際には……
これ、ある意味、環境そのものが……という話。内藤朝雄氏の「イジメ研究」なんかを、物語にしたらこうなるんじゃないかと感じる。学校という密室において、嫌でも付き合うことを強要される。無論、大きな枠で言えば、人間関係の密な村社会というのもあるのだけど。彼らが最も幸せなのは、無関係の他人、という関係であれば……なのだろうな。
ただ、物語は、一応、当時の状況は明かされるものの、それぞれの問題はそのままに残る。それこそ、学校も、町も、すべてが崩壊でもしない限り、そのしがらみが解消されることはないだろう。それは事実。しかし、本当に、何も決着しないままに終わってしまう。そのもやもやは、終わらない関係性のためのか、それとも、物語に対する消化不良感なのか……

No.3255

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