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(書評)ノエル a story of stories

著者:道尾秀介

ノエル: a story of storiesノエル: a story of stories
(2012/09/21)
道尾 秀介

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母子家庭に育ち、そのことでイジメを受けていた圭介。そんな彼に声を掛けたのが弥生。一緒に物語をつむぐのだが……(『光の箱)。身体に障害があることで、周囲から孤立している少女・莉子。自分を理解してくれる祖母を巡り、両親はギクシャクし、しかも、まもなく生まれる妹にその祖母をとられるのでは、という不安にさいなまれていた(『暗がりの子供』) 老境の元教師・与沢。妻に先立たれ、子供はいない。情熱を持った教職においても……(『物語の夕暮れ』)
なんていうか……上手いなぁ。それぞれ、単独で話が完成しているけど、それぞれにかかわりがある。そういうところもさることながら、各編の仕掛けというのが上手く活きている。
例えば『光の箱』。イジメの中で、圭介が引かれた少女・弥生。ともに絵本をつむぎ始めたのだが、しかし、次第に弥生は絵よりも写真に惹かれて行く。少しずつ離れていく距離。そして、そんな中で起きた事件により弥生へ対する疑惑が決定的になって……
最悪の中で見えた光。しかし、その光がだんだんと弱まっていく焦燥感。そして、自ら消さざるを得なくなる……と、そういうところでの暗さ、というのはここのところの著者の作品にある物語。短編ではあるが、その息苦しさが続く。けれども、最後にあるひっくり返し。ある意味、傷ついた者同士、となるのだけど……それで救われているのなら、それで良いのだろう。
『暗がりの子供』にしても同様。莉子がいつも話し合う真子という存在。自分を理解してくれる祖母の関心が妹になるのではないか? という不安。そもそも、祖母の存在そのものが家庭の中の不安材料に……。こちらは、家庭の中でよくありそうな事柄だけど、莉子の視点で見事に描かれている。そして、物語そのものに仕掛けられた技術。初期の頃の作品であれば疑っていたけど、すっかり想定するのを忘れていた。
『ノエル』は、フランス語でクリスマスのこと。クリスマスのときくらい、こういう救いのある結末でも良いよね。
……と、結構、時期はずれなときに読んだ感想なのに言ってみる(笑)

No.3270

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