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(書評)「昔はよかった」と言うけれど 戦前のマナー・モラルから考える

著者:大倉幸宏

「昔はよかった」と言うけれど: 戦前のマナー・モラルから考える「昔はよかった」と言うけれど: 戦前のマナー・モラルから考える
(2013/10/08)
大倉 幸宏

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「戦前は厳しいしつけがなされ、モラルのある社会が形成されていた。しかし、それは崩れた」 今日、何か事件や不祥事が起きるたびに、このような言説がささやかれる。しかし、本当に、戦前のマナー、モラルは良かったのだろうか? 当事の新聞記事、コラム、評論などを紐解くことにより、当事がどのような時代だったのかを考察した書。
いやぁ、非常に面白かった。
本書の内容、というのは、冒頭に書いたとおりである。「戦前のマナーは良かった」なんていう言葉が良く使われるけれども、当事の様々な資料を見ると本当にそうだったのか? という風に思わざるを得なくなってしまう、というといえる。例えば、駅、電車といったものでのマナー。客は我先にと電車に乗り込もうとして、そこかしこで押し問答が繰り広げられる。車内、構内、そこかしこでゴミや痰などがはかれ、老人などに席を譲ろうという者もいない。そんな状況に対する呼びかけや批判というようなものがメディアを賑わせる。その他にも、専門家による不正行為は後を立たず、家庭内では児童や高齢者に対する虐待というようなものも数多くメディアを賑わせていた。そういうものをかんがみるに、少なくとも「昔はよかった」という風には言えない、と思うに違いない。
勿論、これをもって単純に「昔のほうが酷かった」ということは出来ない。
著者自身も何度も述べているのだが、そもそも、それまでの慣習では許されていたものが、明治維新後に禁止になったが、制度に人々の意識が追いついていない、といえるケースは数多い。また、制度の不備なんていうものもある(例えば、高齢者の虐待、高齢者の自殺率が高い、なんていうのは、親に対する扶養の義務を負わせる一方で年金などの制度が無い、ということで一方的に若い世代に負担を押し付けているわけだからその結果、という風にいえるだろう) ただ、それを差し引いても、となるのが何よりもの本書の面白いところ。
特に私が面白く読めたのは、81頁から書かれる「モノが消えるパーティ会場」。庶民レベルの部分であれば、新しい社会制度などに……と言えるかもしれない。しかし、ここで書かれているのは、貴族などが集まる社交界の場で、会が始まると大勢の参加者がたっぷり用意されているはずの食品などを我先にと持ち帰ろうとして押し問答し、その結果、食品だけでなうテーブルなどまで壊れるような惨状になってしまった、という記事の紹介。最も新しい価値観の中で暮らす人だって、となると人間ってそんなに変わらない、というのがよくわかる。
終章で著者が綴る、社会の変化というのが道徳観などに大きく影響を与え、それまで目立たないことが目立つようになる。また、そういう社会の変化そのものが諸悪の原因という言説が出るのではないか? という考察も非常に納得が出来るものだった。
そういう中、様々な資料などを用いることにより、まず、当事、どのようだったのか? どのように捉えられていたのか? というのを検証することは、非常に大事なことであると改めて痛感させられる。

No.3386

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