（書評）警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官

著者：梶永正史

警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官 (2014/01/10) 梶永 正史 商品詳細を見る

渋谷区宇田川町にある新世界銀行渋谷支店で発生した立てこもり事件。その犯人が要求してきたのは、現場指揮官として本来は畑違いである捜査二課の主任代理である郷間彩香だった。馬の合わないＳＩＴ隊長の後藤、飄々とした謎のキャリア・吉田……。彼らを精しながら、事件に向き合う彩香を待つのは……
第１２回『このミス』大賞、大賞受賞作。
同時受賞の『一千兆円の身代金』が、正直なところイマイチと感じたので、こちらに対する期待値が下がってしまったのだけどこちらはなかなか面白かった。
警察小説、ということなのだけど、私が読んでいる作家の作品で言うと横山秀夫氏というよりも、誉田哲也氏の作品に近い印象を受ける。女性刑事が、というのもそうだし、ちょっとオッサンくさいところとか、はたまた、ちょいちょいとギャグを挟んでくるとか、事件そのものの謎と、キャラクター性を両輪として物語を綴っているところが。
その事件のものもなかなか魅力的。渋谷のど真ん中でおきた立てこもり事件。渋谷警察署などにも程近く、金目当てならばすぐに包囲されてしまうそんな場所よりも良さそうな場所は多くある。彩香へを指揮する立場にある刑事部長・野呂の前にはなぜか警察庁の幹部たちが……。いかにも胡散くさいそこに何があるのか？　そして、目の前の事件と上層部という二つの敵を前にどうするのか……。しかも、主犯格の男は、元捜査二課の刑事で、何かの事件を調べている最中に、圧力がかかり、警察を追われたらしい……。冒頭が派手な割に事件そのものは、あまり動きがあるわけではない。しかし、彩香、野呂といった限られた視点で綴られるため時系列の把握はしやすいし、また、それぞれのかなりぶっちゃけた心理とかが良いアクセントとなっていてどんどん読み進めることが出来た。
まぁ、事件の背景にある壮大な人間関係というのは出てきたものの、それを実際にどうするのか？　という部分について「俺たちの戦いはこれからだ！」的に終わってしまった、とか、主人公である彩香が「捜査二課」というのがタイトルでも強調されている割に、物語にあまり活かされていない（もっとも、応募時のタイトルは別なのだが）、とか、その辺りはやや肩透かし気味なのだけど新人賞作品にそこまで求めても仕方が無いような気がする。娯楽作品として、十分に楽しめる水準の作品だと思う。

Ｎｏ．３４４２


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