(書評)満願

著者:米澤穂信

満願満願
(2014/03/20)
米澤 穂信

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6編を収録した短編集。
著者の作品というと、ほろ苦い結末、という印象があるのだけど本作の場合、それぞれが別の味わいのあるものになっている。
例えば『石榴』。
人間としては決して悪人ではないが、しかし、生活能力がない男。妻は、その男との離婚を決めるのだが、その娘達の親権はなぜか男に。しかも、娘は、妻に虐待されていた、ということまで装って。それはなぜなのか?
自分の母親を虐待犯にしてまで男についていきたかった娘の思い。それだけでも十分に狂気といえるものではあるのだけど、そこにさらなる大きな計算が一つ絡んでいた、という真相が物凄く印象的。狂気と計算。双方が見事に融合している。
総合商社に勤める主人公が、バングラディの天然ガス開発をするため訪れた村で、その村の顔役達に協力する見返りに要求されたのは……という『万灯』。
どちらかというと淡々と綴られ、最後は思わぬところからのオチ、というのも上手い。うまいのだけど、それ以上に感じるのは、この時代設定との融合。昭和50年代半ばという時代。高度成長から、今度はバブル時代へ、と言う中でがむしゃらに働いてきた主人公の一種のワーカホリックな状況というのが上手く描かれている。事件のオチ、というようよりも、当事、エコノミックアニマルとか、そういう風にいわれた日本の状況を描いた一編なのかな? というのを思う。
表題作は、どちらかと言うと著者の普段の持ち味を感じる作品。
世話になった下宿屋の奥さん。商才のなかった夫の作った借金を取り立てにきた借金取りを殺してしまい、当初は裁判で戦う姿勢をみせていたが、しかし、病気であった夫がなくなると、それを取り下げてしまう。その理由は……
商才がなく、周囲に迷惑をかけた夫と、それを支えたしっかり者の妻。そんな構図で綴られるのだけど、そんな妻のよりどころ。それが見えたときに、何ともほろ苦い。ちょっと前に読んだ『腐海の花』(柳原慧著)辺りとも似た部分があるのだけど、そもそもがそういう狂気を秘めていたのか? それとも、甲斐性のない夫といる中で、これだけは、と増幅させていったのか……はたまた、相乗効果か。どれとも受け取れる余韻が見事。

No.3475

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