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(書評)傍聞き

著者:長岡弘樹

傍聞き (双葉文庫)傍聞き (双葉文庫)
(2011/09/15)
長岡 弘樹

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4編の作品を収録した短編集。
最近、著者の名前をしばしば見かけるので、どんな作風なのかな? ということで、手に取った1冊。4編で200頁あまりの文庫1冊だから、それぞれ、分量としてはかなり少ない。けれども、それぞれがしっかりとした世界観を持っているなぁ、というのを感じた。
1編目の『迷走』。
間もなく義父となる隊長らと共に出発した救急隊員の潤也。ところが助けるべき相手は義父の敵とも言える男。そして、救急病院からは受け入れ拒否。そのような中、ようやく受け入れ態勢が整った、という連絡が入るのだが、義父は走り続けることを命じ……
一種のシチュエーションを切り取った作品、ということになるのだけど、なるほど、上手い。仕事とはわかっていても「人間」である救急隊員。そして、昨今、話題となっている病院のたらいまわしの問題。決して分量がないにも関わらず、そのような世界観が描かれ、なおかつ、ひっくり返しと希望の見える結末へ。テーマとかを広げれば、長編にも出来そうな素材なのだけど、それを凝縮したからこその味わいじゃないかと思えてならない。
表題作は、二重に仕掛けられたトリックが印象的。
連続して起こる通り魔事件に向かう女性刑事の母。その母に反発し、嫌味な言葉を「手紙」という形で見せる娘。そして、母へと接近をはかる前科者……
こちらもまず、もっと広げようと思えば十分に長編に出来るテーマじゃないか、と思える。というか、もうちょっと分量があっても良かった気もする。けれども、警察官として、様々な犯罪者とあっているからこそ感じる危機感。娘との確執と言う悩み。
ある意味、前科者の行動は自分がそういう人間だからこその嗅覚であるし、それを上手く用いた罠、というので「なるほど」と思わされ、それがもう一丁、最後に来る。先に書いたように、もうちょっとじっくりと描いてくれたほうが、と思うところはあるのだけど、でも、十分な完成度が高い一作だと思う。

No.3477

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