著者:下村敦史
腎臓を傷めている孫のため、兄に移植を頼む和久。しかし、その兄・竜彦はその検査すらをも頑なに拒絶する。兄は27年前、中国残留孤児として帰国し、永住権を得た存在。しかも、若くして視力を失った和久は、兄の顔すら見たことがない。兄はもしかして……。兄についての真偽を探る和久の周囲に、奇妙な出来事も起こり始め……
第60回江戸川乱歩賞受賞作。
うん、面白かった。この手の作品としては珍しく、主人公が全盲である、という設定の特殊さはあるし、それが物語の大きなポイントになっているのは間違いない。けれども、それが仮になかったとしても、この主人公の疑心暗鬼に陥っていく心理描写は読み応え十分であると思う。
冒頭に書いたように、孫のために腎臓移植を求める和久。しかし、それを兄は頑なに拒絶。それは、兄は偽者だからでは? そう疑えば疑うほど、普段の行動が怪しげに思えてくる。自分に金を無心してまで残留孤児についての裁判に挑む兄。さらに、実家に置かれた危険な薬物。さらに、母の不審な最期……。家族だろうと、気の会わないところもあるし、すれ違いも誤解もある。しかし、それが怪しく思えるとどんどんと……
そんな心理描写を加速させるような「本当の兄」を名乗る者の電話。奇妙な手紙に隠された暗号……。それらで引っ張っていくのも上手い。ただでさえ、怪しい、と言う風に感じていたところにそういうのが来たら……
帯に京極夏彦氏のコメントで「たった一行のくだりで殆どの謎や違和感は解消してしまう」とあるのだけど、まさにその通り。ただ一つのことが判明することで、一気に全てがひっくり返り、収束するという鮮やかさは特筆もの。
まぁ、いくら主人公が全盲だからと言って、この作品の一種のトリック的な部分はあり得ないのでは? と思うところがないわけではない。目が見えなくても、いや、目が見えないからこそ、そういった周囲の様子の変化とかに敏感になるような気がするだけに。
けれども、この鮮やかさとか、そういうところは十分に味わうことが出来た。
No.3507

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腎臓を傷めている孫のため、兄に移植を頼む和久。しかし、その兄・竜彦はその検査すらをも頑なに拒絶する。兄は27年前、中国残留孤児として帰国し、永住権を得た存在。しかも、若くして視力を失った和久は、兄の顔すら見たことがない。兄はもしかして……。兄についての真偽を探る和久の周囲に、奇妙な出来事も起こり始め……
第60回江戸川乱歩賞受賞作。
うん、面白かった。この手の作品としては珍しく、主人公が全盲である、という設定の特殊さはあるし、それが物語の大きなポイントになっているのは間違いない。けれども、それが仮になかったとしても、この主人公の疑心暗鬼に陥っていく心理描写は読み応え十分であると思う。
冒頭に書いたように、孫のために腎臓移植を求める和久。しかし、それを兄は頑なに拒絶。それは、兄は偽者だからでは? そう疑えば疑うほど、普段の行動が怪しげに思えてくる。自分に金を無心してまで残留孤児についての裁判に挑む兄。さらに、実家に置かれた危険な薬物。さらに、母の不審な最期……。家族だろうと、気の会わないところもあるし、すれ違いも誤解もある。しかし、それが怪しく思えるとどんどんと……
そんな心理描写を加速させるような「本当の兄」を名乗る者の電話。奇妙な手紙に隠された暗号……。それらで引っ張っていくのも上手い。ただでさえ、怪しい、と言う風に感じていたところにそういうのが来たら……
帯に京極夏彦氏のコメントで「たった一行のくだりで殆どの謎や違和感は解消してしまう」とあるのだけど、まさにその通り。ただ一つのことが判明することで、一気に全てがひっくり返り、収束するという鮮やかさは特筆もの。
まぁ、いくら主人公が全盲だからと言って、この作品の一種のトリック的な部分はあり得ないのでは? と思うところがないわけではない。目が見えなくても、いや、目が見えないからこそ、そういった周囲の様子の変化とかに敏感になるような気がするだけに。
けれども、この鮮やかさとか、そういうところは十分に味わうことが出来た。
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