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(書評)出走

著者:ディック・フランシス
翻訳:菊池光

出走 (ハヤカワ・ミステリ文庫)出走 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2004/02)
ディック フランシス

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全13編を収録した、著者初の、そして、唯一の短編集。
著者が小説家としてデビューしたのが1962年。そして、この書がイギリスで刊行されたのが1998年。なので、デビュー36年目で初の短編集。そして、それ以降、出ていない。そういう風に考えると、著者は長編専門の作家だったのだな、というのがよくわかる。もっとも、収録されている作品は、1970年に初出のものから、1998年に刊行された際の書き下ろしまでと掲載時期は数多い。
収録作で、まず印象に残ったのは『モナに捧げる歌』。
シングルマザーの厩務員として働き、娘を育て上げたモナ。彼女の、しっかりとした仕事ぶり、そして、飾らない人柄を馬術チャンピオンと有名歌手の夫妻は非常に愛する。しかし、その肝心の娘は、母を憎んでいた。だからこそ、よりモナを愛し、彼女を称えた夫妻だったが、最後に明かされた娘に憎まれた理由……。ひっくり返し、というには弱いかもしれない。でも、モナの人柄。一方で、娘も娘で、そのことで苦労をし母を憎むのもわかるような気がする。その辺りのバランス感覚が良かった。
仕事のパートナーであった父を亡くし、その仕事を離れていたマーティン。そんな彼は現在、豊富な馬の知識を活かし、馬具のセールスマンとして活躍していた。そんなとき、ふとヒッチハイクした青年を新たなパートナーとし、仕事を再開することにするのだが……。一種のブラックジョーク的な掌編といえるのだが、これはこれで好き。
元々、女性誌に掲載されたという『春の憂鬱』。巧みな弁舌で女性の馬主を言いくるめ、利益を上げる調教師・クレメント。そんな彼の顧客であるアンジェラが、厩舎の主戦騎手・デリックに恋心を抱いていることを発見し、デリットと共にある金儲けを企む……
どちらかと言うとハードボイルド色の強い作品の多い著者にあって、恋心とか、そういうのを描く、というのは珍しい。そして、しっかりとひっくり返して安心できるオチにする。それも含め、珍しいな、と感じた一作。
正直なところ、結構、複雑なものを無理やりに詰め込んでいる、と思われる作品もある。また、物語のパターンみたいなものを感じた部分もある。そういう意味では、各編で評価がわれるかもしれない。ただ、それでも色々なところに著者らしさが垣間見えるのが面白かった。

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