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(書評)ハーモニー

著者:伊藤計劃


ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)
(2014/08/08)
伊藤計劃

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21世紀後半、「大災禍」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築き上げた。医療の発達により、病気は駆逐され、優しさ、倫理が人々を包み込む。おせっかいなほどに。そんな社会に倦んだ3人の少女は、餓死を選択した……。それから13年、生き残ってしまったその元少女・トァンは、世界を覆う大混乱の影に、ただひとり死んだはずの少女の影響を見る……
ううむ、なるほど……
医療の高度な発達。福祉厚生の進展。それが一体、何をもたらすのか?
生命が何よりも大事である。そして、それを阻害する要素は、身に着けたWatchMeという機械により警告され、阻害される。さらに、その制度が、そのまま、社会での地位にも直結していく。現在のように、明らかな肥満体の人間が政治家としてトップにたつとか、そういうことは絶対にありえなくなった社会。
正直なところ、この世界は良い世界なのか? それとも? そんなことを考えさせられる。そして、考え出すとどうしてもモヤモヤとしてしまう。確かに、病気やら何やらが駆逐された、というのは一種の理想ではある。しかし、その観点からあらゆることが監視対象となり、そして、あらゆる干渉が入ってくる。ある意味、「病気になる権利」すら奪われた世界ともいえる。自由か、健康か……。そして、その監視が行き着く先は「考える」ことすら放棄した社会へ……。言葉を持たない民族とか、そういった様々なガジェットを仕掛けながら、その論理へといたる物語というのに見事に引き込まれた。
その一方で思うのが、著者がこれを書いたタイミングの皮肉。本書が刊行されたのが、2008年12月。そして、著者が亡くなったのが2009年3月。既に病床にあった著者のことをどうしても考えてしまう。病床にあったからこそ、この話を描けたのか、それとも……考えてもわからないことであるが。
最後のところは、完全に余談であるがそういうことも考えさせられる作品なのは確か。

No.3593

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