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(書評)叛徒

著者:下村敦史


叛徒叛徒
(2015/01/21)
下村 敦史

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新宿書の通訳捜査官・七崎隆一。養父の不正を告発した、として、署内でも厳しい目を受ける彼は、歌舞伎町で起きた殺人の目撃者の通訳を担当することになる。だが、そんな中、数日前から家を飛び出したままの息子への疑惑を持った隆一。その部屋で、血まみれのジャンパーと、中国人狩りをしている、というパソコンのログを見てしまい……
書き下ろし、ということなのだけど、これ、乱歩賞を受賞する前に応募した作品をリライトしたものじゃないかな? という感じがした。というのは、この作品の作り方とかって、90年代~00年代くらいまでの乱歩賞受賞作の典型的な展開を踏襲したような形になっているから。
主人公は通訳捜査官という、警察にあっても特殊な存在である人物。そして、そのような技能を持つ上で、技能実習生制度という制度の問題などを追及する。そういう意味で、乱歩賞作品という印象を受けたのである。まぁ、通訳捜査官は、偶々、ちょっと前に読んだ『星星の火』(福田和代著)で出てきたばかりなので、私は知っていたのだけど(笑)
とは言え、つまらないのか? といえばそうではない。90年代くらいからの乱歩賞の作品の、完成度の高い作品という印象。
物語は、冒頭に書いたように、自分の養父の不正を告発し、自殺に追い込んでしまった七崎が主人公。それは、決して間違っていない、という信念を持っていた。しかし、それが自分の家庭に不和をもたらしたのは間違いないし、その結果、息子が犯罪をしたとしたら……。その中で、息子を守るため、わざと誤訳をし捜査を誘導しようとする。そして、そんな中で見え隠れするのが外国人技能実習生制度を使った不正……
乱歩賞でありがちな社会問題を扱いつつ、同時に、自らが不正を働いていて、それがバレるのではないか? さらに、息子への容疑を逸らそうとする誘導。ちょっとした工夫なのだけど、これらによってスリリングさが付け加えられ、どんどん読み進めることが出来た。
物語そのものもしっかりとまとめられているし、読後感も良い。そういう意味で、完成度の高い作品と言えよう。

No.3669

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