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(書評)教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」

著者:内田良



教育は「良いもの」ということが信じられ、様々なことが行われている。しかし、それは本当に、安全、安心なのだろうか? そして、「良いもの」なのだろうか? 「良さ」を追い求めることによって、その裏に潜むリスクが忘れ去られたり、はたまた、却って問題を悪化させてしまうことすらある。
組体操、2分の1成人式、体罰と事故、教師の過負担……などを題材として、様々な教育リスクというものについて考察した書。
まず最初に言うと、著者の主張などの多くについては、WEBサイトでの活動とか、ポータルサイトでの記事とか、そういうもので知っていたりする。ただ、それらをまとめたことにより、まず個別のトピックスについて考えると同時に、それら全体を通して、客観視できる部分は客観視し、その上で問題を考えよう、という主張へ繋がっている、という風に理解した。
個別のトピックスについては、それぞれ、読んでください、という風には思うのだけど、それでも一応、挙げておく。
最初のトピックスである組体操。学習指導要領などにも含まれていない組体操が、近年、小学校などの運動会の見世物として広まっている。しかも、どんどん巨大化している。その中で、計算をしてみるだけでも、土台となる側の人間は極めて重い重量を背負うことで怪我などのリスクを背負うし、逆に上の段に行く人間は、高さ数メートルから落下事故が起きる、というリスクにさらされる。勿論、これは単純計算の上で、で、あり、それぞれの人間は個々人で身長も体調も違うから同じブロックを積み上げるのとは違ってより歪に、負担などがかかりやすい状況が出来るし、また、それはよりリスクを高める要因になりかねない。ところが、そういうリスクを計算することなく、「皆で力を合わせて頑張るのはよい事」「達成感を味わおう」として進められてしまう。本当にそれで良いの? というわけである。
著者が、例えば、登山をする人に「遭難のリスクがある」と言っても、その人はそれを理解している上で行くのだから歯止めにはならいかもしれない。しかし、リスクをしっかりと把握した上で行く登山者と、それを知らずにやらされる組体操などは別、と述べているのだけど、私はそれに全面的に賛成。リスクがこのくらいあって、しかしメリットもこのくらいある。それを秤にかけて、メリットが上と判断したから、というのは私はアリだと思っている。でも、リスクも、はたまたメリットも、どちらも「なんかありそう」くらいなんだよね。それって、一番、ダメじゃないか? と思わざるを得ない。
4章の「教師の過負担」を、なんていうのも結構、重要なことだと思う。こういうと、教員は生徒のために尽くすのは当然、みたいなことが言われるかもしれないけど、本書で記されるように、そもそもほぼ無給で部活動の顧問をやらされてまともに休日を採ることすら出来ない。それも、その教師が全く知りもしない運動部の顧問をさせられたりする。
これ、教員の問題だけではない。だって、その競技についての知識がない人が顧問になって、生徒の安全性は確保されるの? ということを考えなければならないから。しかも、である。それが常態化してしまったら、そもそも教員になりたい、っていう人も減るだろう。そうすると教員の質の低下、という問題にも繋がってしまう。
そういった問題提起。そして、その上で、どうすることが大事なのか? というのは、柔道事故の実態について出たことで、柔道連盟などが事故防止などの方策を取り始めた、という第5章が一つの答えになっていると思う。リスクを客観的に見ることにより、どうすればリスクを減らせるのか、という実践例になっているからである(本書が書かれた後、残念ながら、死亡事故が起きてしまったが、それでも減少傾向にあるのはその取り組みが奏功しているから、と言えよう)
個々のトピックスの方向性などが異なるので、多少、まとめ方が強引にも感じられたところはあるが、リスクをしっかりと把握し、その上で、というメッセージは間違いなく大事なことであろう。

No.3749

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