著者:首藤瓜於




昭和の初め、日本の精神医療界を牽引してきた養父院長が作り上げた葦沢病院。養父院長らに憧れる若手医師・使降醫は、相棒である面鏡真澄と共にその葦沢病院へと就任する。開放的な病院で過ごす、奇妙な症状を持った患者たち。その中でも、ただ部屋の中で何もせずにいる患者に興味を持ち……
風変わりな作品を綴る著者だけど、その中でも飛び切りに風変わりな作品に仕上がっているように感じる。
物語のメインの謎としては、冒頭のところにも書いたただ、部屋の中で何をするでもなく佇んでいる男(「黙狂」)は何者なのか? というもの。特に暴れたりとかするわけでもないのに、「危険」という扱いになっており、男のことを聞いても院長を初め、副院長、看護長……といった面々は口をつぐんでしまう。さらに、男についてはカルテすらない……
と、書くと、「黙狂」は何者なのか? という点についてガチガチに調べようとする話に見えるかもしれないけど、それを背景にしつつも、むしろ、奇妙な症例を持った患者達。そこに集う医師、看護婦と言った人々の人間関係。そういうものに大幅な分量を割いており、その日常話の中で、少しずつ、という体裁をとっている。そして、その人間関係が何とも言えず、魅力的。
主人公である使降醫が担当する患者達。ごくごく、普通に会話できるが、しかし、何かのスイッチが入るとひたすらに、ある物事に関する話を取り留めなく続けてしまう宙丸。暴れるとか、そういうことはないが誰かの言葉を、ビックリするほど正確に、しかも、ソックリに模写してかえる足助。そんな2人に気に入られ、世話を焼く元漁師の老鼠。さらに、清楚な美女である穂鹿。マッドサイエンティストとも言われる志染……。登場人物たちが一癖も二癖もある面々なので、その日常だけでも十分に魅力的なのだ。特に、上巻終盤で綴られる、老鼠の語る自らの過去は冒険譚としても非常に面白かった。
そのような中、少しずつ、それぞれの事件、過去が繋がっていき、さらに現在でも事件が起こって……全ての真相が明らかに……
この感想を書く前に、他の方の感想とかを見て回ったのだけど、「収束のさせ方が残念」みたいなものはある。確かに、ある意味、メインとも言えそうなトリックは想像できそうなところがあるし、物語に大きな意味を持つ過去の事件の真相は推測だけ、とかいう指摘は確かにその通りだと思う。
ただ、それ以外の部分、とでも言えばいいのだろうか……。メイントリックについての掘り下げであるとか、そういうところも含めてかなり丁寧に伏線が張られており、「なるほど!」と思うところも多い。真相にビックリ! ではないのだけど、しっかりと納得できる作りになっている。
かなり分量はあるが、それだけの内容もまたある作品じゃないかと思う。
No.3793&3794

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昭和の初め、日本の精神医療界を牽引してきた養父院長が作り上げた葦沢病院。養父院長らに憧れる若手医師・使降醫は、相棒である面鏡真澄と共にその葦沢病院へと就任する。開放的な病院で過ごす、奇妙な症状を持った患者たち。その中でも、ただ部屋の中で何もせずにいる患者に興味を持ち……
風変わりな作品を綴る著者だけど、その中でも飛び切りに風変わりな作品に仕上がっているように感じる。
物語のメインの謎としては、冒頭のところにも書いたただ、部屋の中で何をするでもなく佇んでいる男(「黙狂」)は何者なのか? というもの。特に暴れたりとかするわけでもないのに、「危険」という扱いになっており、男のことを聞いても院長を初め、副院長、看護長……といった面々は口をつぐんでしまう。さらに、男についてはカルテすらない……
と、書くと、「黙狂」は何者なのか? という点についてガチガチに調べようとする話に見えるかもしれないけど、それを背景にしつつも、むしろ、奇妙な症例を持った患者達。そこに集う医師、看護婦と言った人々の人間関係。そういうものに大幅な分量を割いており、その日常話の中で、少しずつ、という体裁をとっている。そして、その人間関係が何とも言えず、魅力的。
主人公である使降醫が担当する患者達。ごくごく、普通に会話できるが、しかし、何かのスイッチが入るとひたすらに、ある物事に関する話を取り留めなく続けてしまう宙丸。暴れるとか、そういうことはないが誰かの言葉を、ビックリするほど正確に、しかも、ソックリに模写してかえる足助。そんな2人に気に入られ、世話を焼く元漁師の老鼠。さらに、清楚な美女である穂鹿。マッドサイエンティストとも言われる志染……。登場人物たちが一癖も二癖もある面々なので、その日常だけでも十分に魅力的なのだ。特に、上巻終盤で綴られる、老鼠の語る自らの過去は冒険譚としても非常に面白かった。
そのような中、少しずつ、それぞれの事件、過去が繋がっていき、さらに現在でも事件が起こって……全ての真相が明らかに……
この感想を書く前に、他の方の感想とかを見て回ったのだけど、「収束のさせ方が残念」みたいなものはある。確かに、ある意味、メインとも言えそうなトリックは想像できそうなところがあるし、物語に大きな意味を持つ過去の事件の真相は推測だけ、とかいう指摘は確かにその通りだと思う。
ただ、それ以外の部分、とでも言えばいいのだろうか……。メイントリックについての掘り下げであるとか、そういうところも含めてかなり丁寧に伏線が張られており、「なるほど!」と思うところも多い。真相にビックリ! ではないのだけど、しっかりと納得できる作りになっている。
かなり分量はあるが、それだけの内容もまたある作品じゃないかと思う。
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