(書評)明日、今日の君に逢えなくても

著者:弥生志郎



「シノニム」。それは、多重人格のように複数の人格を持つ病。蘭香、茜、藍里は、同じ肉体を共有する3人の少女。6年間もの長きに渡ってそれを共有する3人は、誰が主人格なのかもわからない状況。そんな中、3人の兄・統哉は、その肉体の少女にキスされる。キスをしたのは誰なのか?
……と書くと、何かミステリ小説みたいだなぁ(笑)
物語はむしろ、そのシノニムによって生み出された人格が消えるまで、というのを綴る形。そして、その人格を消す方法は、それぞれの人格が望むことを実現すること。一心不乱にギターを奏でる蘭香、その飛びぬけた運動能力を持ちながらかつての事件で走ることをやめてしまった「弾丸少女」こと茜。そして、泣き虫な藍里。そんな彼女らを、周囲で見守る側から描いていく。
自己実現をする。それは勿論、よい事。でも、それをしたらその人格は消えてしまう。しかし、生き残らせる、というのはその人格のやりたいことを制限してしまう、ということでもある。どちらが良いのか悩む周囲の側。対して、何かを悟ったように、自らの望みをかなえて行く人格……。大事な仲間を、友達を失いたくない。でも……というあたりの感情は切なくて、でも、最終的にそれを
助ける辺りは凄く爽やかでもある。
この中だと、茜の話が特に印象的、かな? 一応、ネタバレになるけど、彼女の過去の事件というのは、練習の結果、疲労骨折をしてしまった、ということ。肉体を共有し、それを理解している側として、それは一番やってはいけないこと。なぜなら、自分のせいで他の人格まで苦しめることになるから。だから、走ることを封印した……。「弾丸少女」と名づけ、茜の走りに魅了されていた瑞樹にとって、それはあまりに悔しくて……
で、本作は実は第4章まである。3つの人格の話が描かれ、そして……となるわけだけど、最後の章の展開はちょっとそれまでと比べて強引な部分があるかなぁ? というのはどうしても感じた。偶然、というのは当然、あるだろうけど……分量的に短編くらいの中で、それが偶然起きました、というのはちょっと……
とは言え、全体を通せばかなり切ない感じの良い話。切ない系の話が読みたいならお勧めできる。

No.3817

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