(書評)街への鍵

著者:ルース・レンデル
翻訳:山本あかね



白血病患者のため、骨髄を提供したメアリは、それが原因で恋人・アリステアの怒りを買ってしまう。身勝手な理由で自らを責める恋人との別居を開始したメアリは、その勢いで彼女が骨髄を提供した相手・レオと面会することにする。優しく、繊細なレオと会ううちに次第に、彼に心惹かれて行くのだが……
イギリスで一時代を築き、今年(2015年)に亡くなった著者。今年、刊行された作品なので、最近の作品だと思っていたら、発表は1996年というの驚いた。ただ、古臭さを全く感じないのは流石、というところだろう。精精、最近の作品であれば携帯電話くらいは登場するだろうな、ということくらい。
で、その物語なのだけど……これが何とも不思議な感じ。
物語はリージェンツパーク周辺で暮らす4人を中心に進んでいく。1人目は、冒頭にも書いたメアリ。2人目に、妻子を失い、公園周辺で暮らすホームレスに身をやつしたローマン。3人目に、生活費のため、周辺の富裕層の犬の散歩係をする老人・ビーン。そして、暴力沙汰で金を稼ぎ、薬物代にしているジャンキー・ホブ。そんな彼らが生活する背景では、リージェンツパーク周辺で暮らすホームレスの連続殺人が起こっている……
という風に書いたのだけど、それぞれが、それぞれの視点で謎を解こうとして……という展開ではないのがポイント。生活圏で恐ろしい犯罪が起きている。しかし、彼らはその事件を目の当たりにしつつも、あくまでも当事者としてではなく、傍観者的な存在として振舞う。むしろ、その中で彼らは自分の目の前の出来事に一喜一憂して……
これって、ある意味、物凄くリアリティがあるのだと思う。メアリについては、ホームレス殺しよりも、別居した恋人・アリステアの方がよほど厄介。とにかく、自らのことに口出しをし、そして、自分と復縁するものと思い込んでいるそちらの方がよほど厄介。ビーンにとっては、犬の散歩で得られる金の方が大事だし、ホブだって薬物の方が大事。自分だって、地元で何か事件が起きた、と言われても、その犯罪そのものよりも自分のことの方が大事だもの。それぞれの中で小さなつながりがあるのは確かだけど、あくまでもそれぞれが、自らの生活をする中で、やがて物語の全体像が見えてくる。
正直、話としてかなりゆっくりとした感じだし、とんでもないひっくり返しがあるわけでもない。ただ、設定の、ある意味のリアリティと、その中でのそれぞれの心理描写の巧みさは十分に堪能することが出来た。
正直、もっとサスペンスフルな物語を予想していたので、その点では肩透かしだったのだけど、それでマイナスというのは違うよね、と(笑)

No.3820

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