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(書評)道徳の時間

著者:呉勝浩



「道徳の時間をはじめます。殺したのはだれ?」 メッセージを冠したイタズラ事件が頻発していた街で、陶芸家が服毒死を遂げる。そして、その現場には、イタズラ事件と同じようなメッセージが……。そんな街で暮らす、休業状態のビデオジャーナリスト・伏見にドキュメンタリー映画の撮影依頼が舞い込む。その映画のテーマは、十数年前、起きた殺人事件。小学校での講演会で、衆人環視の中で起きた殺人事件。完全黙秘を貫いて無期懲役刑となった犯人が残した唯一の言葉。それは、「これは道徳の問題なのです」……
第61回江戸川乱歩賞受賞作。
巻末の選評で、「魅力的な謎」という面を強く評価されているのだが、その点は確かに納得。現在、街で進行形で起きているイタズラ事件。そして、それと合致するような台詞を残した殺人犯。その関連性は? イタズラ事件、そして、陶芸家の死。しかし、その殺人犯は刑務所にいるわけだから犯人ではない。では、一体……?
そして、伏見が関わることとなった映画撮影。当時の関係者にその時の状況を尋ねるのだが、何か感じる違和感。若干、20代の女性でありながら、大手のスポンサーを取り付け、多額の資金を集め、出演スケジュールなども完璧に揃えた監督・越智の情熱は本物。しかし、撮影の中の証言などでは巧妙に誘導を行い、自分の望む回答を引き出している。真相を求めているのか? それとも、何か目的があるのか……? 報道の中身を、意図的に……このテーマだと、編集によって「事実」を作り出してしまった、という同じ乱歩賞作品『破線のマリス』(野沢尚著)と被る部分があるのだけど、ある種の正義感が暴走した結果である『破線のマリス』以上に「報じる側の悪意」というメッセージを持っていると思う。
その両輪によって興味を惹かれ、読み進めることが出来たのは評価されるべき部分だろう。
ただ……最終的に、過去の事件と現在の事件のリンクというあたりがイマイチ……。っつーか、ぶっちゃけ、これ、関係なくない?(苦笑) また、映画の側の話についてもイマイチ納得できず。そもそも、そんな理由で殺人を犯す? 非合理的過ぎるんですが……。まぁ、これに似た事件は、丁度、この本が刊行される前後で起きてはいたのだけど……あれは、別に、そのために起こした事件ではないだろうしなぁ……
と、魅力的な謎で引っ張る、という意味では十分に成功していると思うのだが、その話のまとめ方にはかなり無理があるように思う。まぁ、公募新人賞作品の場合、序盤は良いけど、まとめでグダグダ、というのは往々にしてありがちなパターンなのだけど。
あと、最後に言っておく。無期懲役刑は十数年程度じゃ、仮釈放になりません!

No.3836

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