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(書評)残念ねーちゃんの捜索願い

著者:佐原菜月



美人なのに、趣味も性格も「おっさん」そのものな姉・利津。今日も、恋人に振られ、赤提灯で一人酒し、酔いつぶれる。そんな翌日、二日酔いの姉の中には本当の「オッサン」の意識が表れる! 姉の身体に触れると、確かに野太いオッサンの声が……。利津と弟・楽十は、オッサンの正体を探るべく、調査を開始するのだが、それはある殺人事件と結びついていって……
なんか、雰囲気としては加藤実秋氏の『テディ』シリーズに近いものを感じる。姉の身体に憑依した「オッサン」。そして、反発しながらも、性格はやっぱり「おっさん」そのものの利津。そんな二人に振り回され、そして、ツッコミ役として活躍する弟・楽十。『テディ』シリーズはおっさん1人と、若い女性1人だけど、やりとりとか、そういうものに共通したものを感じる。
なんていうか……何よりも、本作の魅力はキャラクターだと思う。繰り返しになるけど、おっさんそのものになる姉が……。いや、残念っちゃー残念なんだけど、私、こういう性格の人、好きだけどなぁ(笑) いいじゃん、野球見に行って、熱くなりすぎて相手に野次飛ばすとか(笑) 変に格好をつけているよりよっぽど好感度が持てる。……というのは、私がおっさんだからか?(苦笑) そして、Wおっさんにツッコミを入れる楽十。そういう姉に振り回されたので……っていうのは、よくラノベ作品である設定ではあるのだけど、常にツッコミを入れるわけじゃなくて、時に逃げたり、はたまた、オッサン(憑依したほう。以下、ひらがなが姉、カタカナが憑依したもの、として表記する)から同情されたり……。そのあたりの距離感は姉弟という感じで丁度いい。そして、オッサン。趣味とかは姉に近いのだけど、もう少し常識人っぽい存在で、かつ、時に楽十を導いたりとか、こちらもなかなか好感が持てるキャラクター。なんか、3人(?)の距離感が凄く心地よかった。
そして、そんなオッサンの正体を探る中、憑依された頃に発見されたのは溺死したホームレス。しかも、それは利津らの父を殺した容疑者。オッサンと、父が殺された事件につながりが……? 先に書いたオッサンのキャラクターが良いだけに、オッサンが強盗殺人犯とは思えない。そもそも、本当にその人なのか? そして、父が死んだ真相は……? と展開していく。意外と、こちらはこちらで真面目にミステリをやっていて、こちらも車の両輪として話を引っ張ってくれたと思う。
結構、「こいつが怪しい」というのが露骨に出ているから「やっぱり」的なところはあるし、終盤はちょっとドタバタした感じもある。そういう意味で、単純なミステリ作品としては弱いのだけど、キャラクターがしっかりしているのでその弱点を十分に補っていると思う。
他の方の感想とか見ていると、賛否両論のようだけど、私は「賛」の方だな。

No.3855

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