(書評)片桐大三郎とXYZの悲劇

著者:倉知淳



歌舞伎役者の家に生まれながら、若くして映画俳優に転進。映画スター、そして、時代劇の大スターとして国民的な人気を博した片桐大三郎。しかし、古希を過ぎた頃、原因不明の難聴により聴力を失って俳優業を廃業。現在は、芸能プロの社長(ただし、皆には座長と言われている)をしている。そんな彼の趣味は、事件の調査。警察の捜査に加わり、見事な推理で解決に導くこと。そんな大三郎の趣味に、彼の耳役をする野々瀬乃枝(通称・のの子)は振り回されることとなって……
という連作短編集。短編集と言っても、上下二段組の上に、各編100頁くらいあるので、かなり分量ではあるのだけど。
最初に書いておくと、私はエラリー・クイーンの作品については詳しくない(題材にされた作品の名前くらいは知っているが、それだけ。内容は知らない) なので、その点については言及のしようがない。そんな断りをした上での各編の感想。
通勤ラッシュ時の山手線内で発生した殺人事件を描く『冬の章』。
これは何よりも、アイデアの勝利だと思う。自分もラッシュ時の山手線には乗ったことが何度もあるが(大学時、通学に使っていた)、身動きがとれず、何度か、大学のある駅で降りられなかった、ということを経験した。そんな中での毒殺。相談を持ちかけた警部が言うように、それが無差別事件だったらとんでもないことになるし、逆に狙っての犯行だとしたら、どうやって標的だけに絞ったのかが問題となる……。二つの不可解な状況の魅力が見事。
画家が、物置にあったウクレレで撲殺された『春の章』。
その物置には金属バットやら、バールやら……と、武器にするには使いやすそうなものが沢山あった。そして、その画家のひ孫の証言により、彼はずっと物置にいたらしい。なぜ、そんな場所に? トリックとしてはオーソドックスなのだけど、途中に挟まれた画家の最近の変化、とか、そういうのがしっかりと伏線にあっている辺りが上手い。
資産家の赤子が誘拐され、その世話をしていたベビーシッターは殺されてしまった、という『夏の章』。
犯人から身代金を要求されるが、しかし、しばしば、その電話が切れてしまう、という不可解な状況。そして、その事件そのものの構図……。トリックとか、そういうのはしっかりとしているんだけど……とにかく、このエピソードは後味が悪い。それが味と言えばそうなのだろうが……
そして、『秋の章』。
大三郎を主演させ傑作を次々と送り出した名監督の、未発表の原稿が発見された! しかし、その原稿は、厳重に管理されたキャビネットが消失してしまった! それはどうやって!? 一応の物理トリックでの推理と、脱力モノのオチ。そして……。騙されたのは確かだけど……なんか、一瞬、別のことを心配してしまった(苦笑)
トリックそのものは比較的オーソドックスにまとめた作品集。でも、それを最大限、魅力的に見せる技術はさすがだな、と思わせられた。

No.3869

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COMMENT 2

苗坊  2016, 02. 17 [Wed] 20:45

こんばんは~^^
久しぶりの倉知さん、なかなか読むのに時間がかかりましたが面白く読みました。
自分が使っていたルートとほぼ同じって凄いですね。そういう自分が経験していることが入ってるとおお!と思いますよね。
私の場合、小路さんの作品はローカルネタが多いので嬉しかったりします^^
私はエラリー・クイーンの事は何にも分っていないのでタイトルの事すら全然わかっていませんでした^^;悔しい。
それにしても大三郎と乃枝のコンビも良かったですし警部さんたちとお掛け合いも良い感じだったのですが夏の章の後味の悪さが引き立っていましたねー。何だか若干トラウマです…^^;

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たこやき  2016, 02. 19 [Fri] 00:29

苗坊さんへ

こんばんは~。
作品に自分と身近な場所が出てくると、より思い入れが出ますよね。まぁ、山手線の混雑は、あまり経験したくないですが(笑)

キャラクターの掛け合い、明るさが一つの売りなだけに、夏の章は余計に後味の悪さが際立つように思います。本当、トラウマです……

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