(書評)昨日の海は

著者;近藤史恵



いつも通りの夏のはずだった……。四国、海沿いの田舎町で暮らす高校生・光介の家に、母の姉・芹と、その娘・双葉が同居することになった。すっかり物置と化したかつての写真店のスペース。その再建を試みる芹は、祖父母が無理心中で死んだと聞かされる……
凄く不思議な雰囲気をまとった作品。それが、何よりもの感想。「青春ミステリ」とあるが、まさにそんな感じ。
物語はあくまでも日常の延長線の中で綴られる。田舎町の、のどかな、しかし、ある意味、代わり映えのない退屈な日々の中に訪れたちょっとした変化。東京で暮らしていた伯母の帰省。祖父が営んでいた写真店を再建しようとする中で、光介自身も写真に興味を持ち始める。と、同時に、祖父母の死についての興味もまた……
そんな興味が物語の根底にはあるのだけど、でも、その日常部分が多く描かれる。カメラを購入する。長らく放置されていた写真店の再建。その中で、すっかり汚れてしまったシャッターへ絵を描いてもらう。従姉妹に当たる少女・双葉の世話。そのような日常に多くの分量が割かれながら、しかし、祖父母の死という謎、それも、祖父母のどちらかが相手を殺害したという疑惑が、光介の行動のエネルギーとして活気を与える。そのバランスの取りかたが絶妙で、そんなに大きな出来事があるわけでもないのに、どんどん良い進めることが出来た。
ある意味、この作品の肝は世代間ギャップとも言うべきものじゃないかと思う。
光介にとって、祖父母は当然、祖父母。しかし、二人は自分が生まれる前に亡くなっており、よくも悪くフラットな状態であり、むしろ、その好奇心の方が勝る状態。一方、母や伯母にとっては、文字通り、祖父母は自分の母親。勿論、愛情も憎悪も色々な感情の対象として存在している。だからこその、伯母の態度の変化……。芸術家としての矜持と、家族の感情、田舎の人間関係……そういうものもテーマなのだろうことは明らか。でも、私は、光介と、母&伯母、その両者のギャップというのが強く印象に残った。

No.3879

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村



http://ylupin.blog57.fc2.com/blog-entry-9612.html
スポンサーサイト

COMMENT 0

TRACKBACK 1

この記事へのトラックバック
  •  昨日の海は/近藤 史恵
  • 近藤史恵さんの「昨日の海は」を読み終えました。物語の舞台となるのは、四国の磯ノ森と呼ばれる小さな町です。主人公の光介は、そこで両親と一緒に暮らしています。光介は
  • 2016.01.04 (Mon) 18:23 | 日々の記録