(書評)カールの降誕祭

著者:フェルディナント・フォン・シーラッハ
翻訳:酒寄進一



3編の物語を収録した短編集。
3編を併せても80頁あまり、という極めて薄い本。そのため、ぶっちゃけ、私は20分程度で全編を通読することが出来た。物語の流れを掴むだけならばそれで十分。でも、それで終わらせてしまうのは何とも……。著者の作品は『犯罪』から追っているわけだけどどんどん一読しただけで判断しづらくなっているような気がする。
物語として一番、わかりやすいのは1編目の『パン屋の主人』。全てがオートメーション化されたチェーンのパン屋で働く男。彼は、かつて、自分でパンやスイーツを作り、売っていた、という過去を持っていた。その男が、なぜ現在のようになったのか……?
幸せな日々だった……はず。しかし、本の少しの疑念でそれは崩れ去り、現在の状況に。そんな日々に潤いを与えてくれた一人の女性。しかし、それもまた……。「懲りない奴」っちゃあ、そうなんだろう。けれども、そんなしょーもなさもまた、人間なのだろう、という気がする。
2編目『ザイボルト』。長年、真面目な裁判官としての日々を全うし、その職を定年退官したザイボルト。しかし、やがて彼の日々は……
これは、どういう風に判断すれば良いのだろう? こういうと何だけど、定年退官後、既に彼は認知症になっていたのではないか? なんてことすら思ってしまう。だって、旅行での感想、そして、その後の行動とかを見ると明らかにズれているのだもの。
勿論、そうではない、ということもあるだろう。イタリアで、自分の「常識」がそこで通用しなかったこと。そして、帰国後に自らが起こしてしまったこと。そして、それにより、自分の中の箍が外れてしまって……。多分、こちらが正解なのだろうけど……先に書いたような解釈でも成立してしまいそうなのが、この著者の特徴だよな、とも思う。
3編目の表題作は……うーん……。多分、一番、難解な物語。
ストーリー展開という意味では、『禁忌』に近い印象。カールを生い立ちより描き、やがて、彼は犯罪を犯した……というところまでを描く。ただ、『禁忌』よりは、カールの想いに近づくことが出来るかな? とも思う。完全なる没落貴族の家に育ち、言っていることは大層なものだが、しかし、俗物といえる家庭環境。その中でカールにたまった鬱屈……。なんか嫌な感じの生育環境の描写と、最後の一言は、それを象徴したものかな? と……
まぁ、色々な解釈の出来る作品だと思う。

No.3888

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