(書評)きのうの影踏み

著者:辻村深月



階段専門誌『Mei(冥)』に収録されたものを中心とした13編を収録した短編集。
本作は、角川書店の「幽BOOKS」レーベルとして刊行された作品。このレーベルだと過去に『幽談』『冥談』(ともに京極夏彦著)、『死者のための音楽』(山白朝子著)を読んでいる。そして、皆、テイストが似ていることも感じる。
そのテイストというのは、所謂、幽霊が直接出てくる、とか、はたまた、スプラッタ的な要素がある、とか、そういうわけではない。ある意味、淡々と日常を描き、しかし、その中にうっすらと非日常な存在が現れ、意識するとうっすらと怖くなっていく。そんな話が多いのである。そして、本作もそのような印象。もっと言うなら、その非日常への気付き、というような要素を持ったエピソードが印象に残った。
例えば、『手紙の主』。作家である「私」の元へ届いた奇妙な手紙。「あなたの本を読んだことはないが、名前が気に入った」という一文から始まるその手紙。変な手紙が来ていたな、というだけで記憶の奥底にしまわれていたが、作家仲間の話でそんな手紙の存在に気付く。話の内容、書き方は共通している。しかし、その話を聞いていると、少しずつ違いがあり、しかも、その内容も送り方もどんどん身近に近づいている……。結果、どうなったとかそういうオチがあるわけではない。しかし、だからこその後味が印象的だった。
『スイッチ』も似たような印象。電車で音楽を聴きながら移動していると、隣に座った少女が、その歌手のファンだと話しかけてきた。正直、苦手だな、と思いつつ時間を過ごすのだが、そのことをきっかけに普段は気付かなかった奇妙なものが見えるようになった。こちらも、何が、とかいうわけではないのだが、ふとしたきっかけで……というテーマを感じる一編。
シンプルな構成、と言う意味では『ナマハゲと私』。秋田出身で民俗学を専攻する主人公は、友達と共に実家へ帰り、ナマハゲを体験することに。他の地域に住んでいる人にとっては、珍しい祭そのもの。しかし、出身者にとっては最早、年中行事のようなもの。小さな頃はともかく、ある程度大きくなると、そんなものよりも……とか、そういうある意味でのアルアルが綴られ、そして……。ブラックユーモアと、まさかの結末が面白かった。
結構、アッサリと読み終わるし、怖いという直接的な恐怖があるわけでもない。でも、何か変な気配がある……ような気がする。そんな読後感の作品集だった。

No.3915

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