(書評)ロスト

著者:呉勝浩



「ムラセアズサを預かっている」 コールセンターに掛かってきた誘拐犯を名乗る者からの電話。要求された身代金は1億円。そして、輸送は100人の警官が100万円ずつ。なぜ、そのような要求なのか? 家族にではなく、職場になのか? そして、同じような要求は、彼女が所属していた弱小芸能事務所にも……
著者のデビュー作『道徳の時間』もそうなのだけど、著者は「魅力的な謎」を作り出すのが上手いな、というのを凄く感じる。
営利誘拐を宣言し、2箇所へと脅迫の電話をかけてきた犯人。被害者である村瀬梓がバイトをしていたコールセンターでは100人の警官に100万円ずつ運ばせろ、という要求。しかも、ここへ持っていけ、というものはかなり厳しい要求となっていて、明らかに不可能なものもある。なぜ、そんなに小分けにするのか? 無理なことを言い出すのか? その理由は?
一方で、芸能事務所の社長である安住は、警察に届けず、自ら金をかき集め、犯人の要求に従う。安住は、過去の出来事から、決して、自分の事務所のタレントを見捨てないことを心情としている。しかし、そんなことをなぜ犯人は知っているのか?
そんな謎から始まり、ネタバレになってしまうけど、思い切っていう。犯人の要求に応えたにもかかわらず、村瀬梓は死体で発見される。しかも、彼女は、電話が掛かってきたときには既に殺されていた。そして、その中で、彼女が所属していた事務所の社長・安住が最有力の容疑者となる。安住に要求した犯人の行動は、彼を犯人にしたてるためのもの。しかも、安住いは、過去、刑務所にはいかなかったものの後ろ暗い過去もあるため警察の心象は真っ黒。ところが、実際にそうだとすると、コールセンターの内情を知っていなければ無理という矛盾が生まれる。さらに、被害者・村瀬梓とは一体何者なのか? 勿論、読者は安住が犯人ではないのを知っているから余計に謎が増える。その辺の謎に謎を重ねていく辺りは非常に面白い。
ただ……前作もそうなのだけど、まとめに入ってくるとちょっと失速したかな? と。実は関係者が、非常に身近にいる存在だった、というのは良いのだけど……その辺りの謎解きを警察ではない人々が明かしていく、というのはどうなんだろう? 安住という容疑者がいるとは言え、被害者は何者なのか? どういう風に計画を練っていたのか、というようなところに全く手をかけず、半ば誘導尋問的に状況証拠だけを積み重ねようとする警察は流石に無能すぎる。また、犯人がバラバラにした理由についても、そこまでの意外性はなかった、かな?
それでも、前作よりは好き、だな。

No.3922

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村



スポンサーサイト

COMMENT 0