(書評)我が家のヒミツ

著者:奥田英朗



家にまつわる6編を収録した短編集。
著者の『家日和』『我が家の問題』など、何気ない日常を描いた作品って、本当、ほっこりとした後味を残すのだけど本作もその延長線上。でも、本作の登場人物って、社会的な成功者が多いような気がする。
個人的に好きなのは1編目の『虫歯とピアニスト』。歯科医院で事務員として働く敦美。そんなある日、患者としてやってきたのは、敦美が大好きなピアニストの大西。エッセイなどで見ているような、気取らない人柄がそのままで嬉しい。彼のことを知らない振りをして、会話をしたり何なり……。頼りないと思っていた夫の思わぬ活躍と、普段の楽しみをくれる大西。その関係性が非常にほほえましかった。
同期入社の河島と出世争いを続けてきた正雄。しかし、50代も過ぎ、どうやら河島に軍配があがり、自分は出向になるらしい……と悟るところから始まる『正雄の秋』。正直、大企業の役員という正雄の心境にどこまで共感できるか……といのはあった。しかも、少しは暇になるんだから、という妻の言葉を嫌がったり、趣味にはまっている同世代の人間を見下したり……。でも、ある意味、それがプライドだったのだろうから、という意味で納得できたところも。そして、そのような中で起きたライバル河島の家庭の不幸。それまで一番、嫌いだった相手のルーツを知って、何かどうでもよくなった。その心境の変化という結末はほっこり。
収録作中、異質なのは『妊婦と隣人』。産休で仕事を休み、家にいるようになった葉子。そこで気になるのは、最近、引っ越してきた隣人。家にいることは確実なのに、家から出る気配もなければ、宅配便なども届く気配もない。それを夫に相談すると、考えすぎと一蹴されるだけ。しかし、どんどん不信感が募っていって……。結局、隣人は何だったの? とか、そういうのも含めて異質なエピソードだと思う。
子育ても終わり、ボラティア活動をしていた妻が市議選に出馬したい、と言い出した……という『妻と選挙』。主人公がN木賞作家、とか、思考パターンとか、著者のエッセイに出てくる著者そのものという印象。もし、著者が結婚していて……というシミュレーションで書いたのかな? とか邪推してしまう。
大きな賞を取ったとは言え、最近は発行部数も下がり気味。妻にも、出馬するとは言われたものの、手伝ってくれなくてもいいと言われる。ある意味、何となく下がり気味と言う思いを抱く中、選挙運動に熱心になり、その中で、色々と悩む様子を見て……。どちらも元気を喪いつつある、というところを夫婦で支えあい、上昇のきっかけにする結末は、作品集の締めとして非常に良かった。

No.3932

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