(書評)革命前夜

著者:須賀しのぶ



1989年。年号が昭和から平成へと移り行く中、ピアノに打ち込むため東ドイツへと留学した真山柊史。彼が留学したドレスデンの音楽大学には、誰もが知る天才ヴァイオニリストが2人。正確な解釈で、どんな難曲も弾きこなすイェンツ。圧倒的な個性で周囲を魅了するヴェンツェル。ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で伴奏を勤めることになる真山だったが……
第18回大藪春彦賞受賞作。
青春物語。けれども、ただの音楽小説ではない。そんな感じだろうか。
物語の中心は、日本から東ドイツへと留学した真山が、その場で出会う様々な音楽家、人々との交流であり、その中での葛藤である。正確無比な技術を持つイェンツ、周囲を振り回しながら、しかし、魅了してやまないヴェンツェル。さらには、在野のオルガニストであるクリスタ。その圧倒的な技術に振り回され、その行動に振り回され……。楽譜どおりにひけるけど、それだけ。そんな評価をされる真山の葛藤などは文字通り、青春小説という趣。
ただ、その背景には、どうしても当時の東ドイツ、共産圏という世界が見え隠れする。
冷戦が終結して20年以上が経過した中、日本で暮らしていて共産圏と言うと北朝鮮みたいな印象で、北朝鮮と言うと外部との接触を絶って孤立した……みたいな感じになるけど、そこまで何もないわけではない。西ドイツなどに行くことも可能だし、その情報なども入ってくる。しかし、入ってくるからこそ目立つ東ドイツの閉塞感。さらに、素晴らしい才能を持ちながら、在野でしかないクリスタの背景、はたまた父の友人一家を襲う悲劇。それは共産主義国、それも、行き詰っていることがわかりきっている状態の……。決して、政治的な話を主にしているわけではないのだけど、確実に影響している、というバランス感覚が上手い。
青春物語と、その背景の文字通り、冷戦末期の停滞した空気。そんな状況が綴られた上で起こる一つの事件……
個人的には、大藪賞受賞作という理由で手に取った書であり、これがどういう風にミステリ、冒険小説的な方向へ行くのだろう? というのがあった。そして、その事件の真相は、正直なところ、かなり小粒。でも、それが良い意味でスパイスとなっていると感じる。その事件は、社会的な原因が理由なのか? それとも……? 人々の生活を規定するのが国家。でも、どんな国であっても、人々は様々な思いを抱えている……
じっくりと読ませる佳作。

No.3943

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