(書評)歓喜の仔

著者:天童荒太



東京の片隅にある古アパートで身を寄せ合って暮らす3兄妹。父は失踪し、母は植物状態。多額の借金を返し、家族を養うため、罪を犯しながらも日々を送る彼らは……
著者の作品は、一応、デビュー作である『孤独の歌声』から読んでいるのだけど、当初はエンターテインメント方向だった作風が直木賞を受賞した『悼む人』で一気に、読者の想像とかそういうものを要求する方向に話を転換した感がある。そして、本作もそのような作風の中で綴られているように思う。
冒頭にも書いた3兄妹。
17歳、長男の誠は、父の借金を返し、弟たちを養うために働く。市場で、中華料理店で、そして、覚醒剤のパッケージングで。そのような中で、その首根っこをおさえているヤクザの中の勢力争いに巻き込まれていく。一方、次男で、小学6年の正二は、献身的に母の世話をしながらも、学校ではイジメに遭っている。そして、そんなとき、外国人の少年・ルスランと出会う。そして、末妹の香。母を「くさい」と嫌う幼稚園児である彼女は、社会的弱者を集めたその幼稚園で、「群れ」と呼ぶ仲間と出会う……
正直なところ、話としては淡々と展開し、あまり起伏が感じられなかった。3兄妹の視点で綴られるのだが、それぞれの話の間でのリンクなどはそれほどなく、かなり独立した形で展開する。しかも、しばしば、外国の紛争地帯での話(?)が挿入される。そのため、より、「長い」という印象を抱くことになった。
ただ、そういうマイナス点を差し引いても、帯に綴られていた「人間は滅びない」というメッセージは強く感じる。
こういうと何だけど、本作の主人公である3兄妹は物凄くしぶといのだ。それぞれが、ある意味、どん底にありながら、その立ち位置を意識しながら、そこから自らの場所を確保し、それを実行していく。勿論、それぞれの立場なりに、危うさとか、すれ違いとかはある。でも、それぞれが、そこに対応しよう、という意思が感じられる。その遺志こそが、この作品の肝だと思う。そして、それが最後まで貫かれていた、というか……
私自身は、「文学性」とかってよくわからない。物語、という意味では物足りなさも思った。でも、その中でそれぞれのキャラクターの存在感は感じた。
そんな評価。

No.3947

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