(書評)ただ、それだけでよかったんです

著者:松村涼哉



ある中学校で、一人の男子生徒・Kが自殺した。『菅原拓は悪魔です』という遺書を残して。自殺の背景には、菅原拓による、Kら4人の少年に対するイジメがあったという。だが、菅原拓は、スクールカース下位の地味な生徒。対して、自殺したKは、学年でもトップクラスの人気者。そして、イジメの兆候は見えなかった。「革命は進む。どうか嘲笑して見て欲しい」 悪魔と呼ばれた菅原の「革命」とは……
第22回電撃小説大賞大賞受賞作。電撃小説大賞の大賞受賞、というのは勿論、大きな勲章ではあるのあけど、これ、一般レーベルのミステリ新人賞とかをとってもおかしくない出来じゃないかと思う。
物語は、自殺した少年Kこと、昌也の姉と、その遺書で悪魔とされた少年・菅原の視点で綴られる。
自分の弟がイジメに遭い、それを苦に、ということを信じられない姉が調査の中で見出していくのは、そうではなさそうだ、という状況証拠。弟は優秀で、菅原は目立たないタイプの少年。どう考えても、イジメられていたとは思えない。そういう流れになっているのは、自殺事件の少し前の学園内での暴行事件のみ……。そして、菅原視点でつづられるのは、当然、彼がイジメを行う様ではなく、ある意味、クラス内最下位からの逆転への「革命」の手順……
物語のキーワードとなるのは、生徒同士で相手を評価する「人間力」なる指標。そして、それは学力以上に、進路などに影響を与える指標。この「人間力」なるものは、作中のオリジナルではある。でも、やり方は違うにせよ、実際の学校にこういうものを導入すべし、みたいなのが教育破壊実行会議などの政府機関で出ているんだよね。しかし、そもそもが、狭く閉鎖的な人間関係を強いる学校という空間でそのようなものが導入されたら……という息苦しさ。そして、その中にある、独特な価値観を逆手に取った菅原の作戦。世界がまだまだ狭く、しかも、必要以上に近い人間関係を強いる空間。その中で二次性徴期に入り、ある種、強い自我が芽生え始めた時期。その辺りの年代の心情などが上手く処理されている。しかも、「一人の」革命だったはずに、便乗する人間が現れたり……とか、そういうあたりもリアル。
決して、読後感の良い話とは言えない。でも、そういうのも含めて学校という閉鎖空間の息苦しさとか、そういうものがしっかりと描かれた作品。

No.3964

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