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(書評)掟上今日子の退職願

著者:西尾維新



最速の「忘却探偵」・掟上今日子が、女性刑事とのコンビで、不可解な死体の謎に挑む、シリーズ第5作。全4編を収録した短編集。
1編目、『バラバラ死体』。バラバラ死体と発見されたのは、周囲から多くの恨みを買っていた男。容疑者は沢山いるのだが、発見されたようなバラバラ死体にするような時間は誰にもない。その真相は……?
なぜ、死体をバラバラにするのか? バラバラ殺人を題材にしたものではお約束の謎。この話の真相は、ある意味、バカミス的な部分ではある。ただ、それを真面目に実行する、というのが上手いこと意外性に繋がっている。と、同時に、多少の無理な部分について、「こうすれば解決できるはず」と今日子が解決方法の示唆して終わる、という結末と上手く結び付けられている。
プロ野球のベテラン投手が、何もないはずの練習場のマウンドに転落死した状態で発見された『飛び降り死体』。
これは、ちょっとな……と感じるところ。文字通り、上空には何もない野球場のマウンドにあった転落死体。なぜ? 魅力的な謎、という意味ではその通りなのだけど、今日子の推理通りだとすると当初の状況説明とは異なってしまうはず。
病院のベッドの上で、老人が絞殺された。殆ど、自分で動けない状態の老人。しかし、発見される直前に、そのベッドからはナースコールが発せられていた……という『絞殺死体』。収録されている中では、最もオーソドックスなミステリといえるかもしれない。状況、そして、トリック共に。ただ、このエピソードは、むしろ、仕掛けよりも、一定時期より記憶が更新されない、という今日子そのものの掘り下げ、と言う意味を持っているように感じた。ぶっちゃけ、私でも「こうかな?」くらいは予測できたくらいなので、恐らく、今日子の記憶が更新されるのならば一発で分かったんじゃないか、という気がする。
ある意味、表題作的な意味合いの強い『水死体』。浅い池に遺棄されていた他殺体。殺害方法も、凶器もわかっており、容疑者の当てもあるが、なぜ、その池に遺棄されたのかがわからない。その理由は?
死体を隠す、と言っても水深の浅いそこでは隠す意図があるとは思えない。また、容疑者の生活圏であり、わざわざそんなところに? という部分もある。単に考えなしに、ということもあるけれども……。このエピソードで描かれる真相って、かなり憶測が強く、かつ、状況証拠的なものではある。その意味では、やや弱いかな? とも思う。
ただ、こうやって俯瞰してみると、「可能性を潰していく」という推理がこの巻のテーマになっているように感じる。ただ、その意外性を狙ったが故に、ちょっと強引とか、そういう風に感じるところがあったのが残念なところ、かな?

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