(書評)ユダの柩

著者:福田和代



2011年、東日本大震災の災禍に日本が揺れる中、公安刑事である友利は、アルカイダの資金洗浄担当者と見られる男を追っていた。そんな男に接触していたのは、アフリカの小国マムリアからやってきた者たち。だが、そのマムリアからの来訪者は、次々と不可解な死を遂げ……。一方、大手商社の社員である唐木は、マムリアの産業大臣・ムナの協力を得て、増水プラント建設を進めるが、その大臣・ムナが殺害され、しかも……
ユダと言えば、キリストを裏切り、キリストが処刑されてしまうきっかけとなった人物。裏切り者。当然、その裏切り者、というのが題材になるのかと思ったら……関係ないわけではないのだけど、そういう話ではなかったような……
自分にとって故郷、祖国。そんなものが、この作品のテーマなのかな?
マムリアからの来訪者が来る中、そのマムリアについて知るために友利が訪ねたのは、マムリアから日本へと帰化した老教授。貧しい国であり、一部の特権階級が富を独占する貧富の差が大きな国。しかし、その国に対する思い。祖国を離れるきっかけとなった出来事への後悔。自分のアイデンティティはどこにあるのか? という思い。そんな彼の思いは、日本と言う国にあって、しかし、百数十年前までは別の国であり、また、戦後はアメリカであった沖縄出身の友利のアイデンティティをも揺さぶる。
一方で、造水プラント建設を進める唐木の後ろ盾となった大臣ムナ。特権階級にあり、その立場を維持することを考えていることは事実ではあるが、必要以上にそこに執着することはなく、国の発展を願う男。しかし、その死の後、浮かび上がるのはクーデタの計画。国の発展を願っていたムナの思いを引き継いで……と唐木は奮闘するが、日本へやってきていた側近もまた次々と死んでしまう……
国を発展させ、経済格差やら何やらをなくす。これは、ある意味、非常に大事なこと。しかし、それによって変わってしまうものがある。さらに、かつて、自分もそれを夢見て、夢破れた者にとっての「思い出の中の故郷」が崩されるとき……
犯人が誰なのか、とかは、登場人物の少なさもあって、消去法でわかるのだけど……。国、そのあり方。さらに、ノスタルジィという厄介な思い。そういうものは十分に伝わる話に仕上がっていると思う。

No.3972

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