(書評)中野のお父さん

著者:北村薫



体育会系な美希が勤めているのは出版社の文芸編集部。仕事の関係で、実家を出ているが、何かあるごとに中野にある実家へと戻っている。そして、そんなとき、国語教師の父は、不可解な謎を解決して……
著者の作品を読むのは久しぶりだな~……と思って調べてみたら、『鷺と雪』以来。実に5年半ぶりだった。流石にちょっと驚いた。
で、本作は現代を舞台にした、著者らしい「日常の謎」作品ではあるのだけど、かなりバラエティに富んだ作品集という印象。
1編目『夢の風車』。公募新人賞の、最有力候補として最終選考に残った1編。ところが、作者に連絡を入れると、昨年、応募したもので今年は出していない、という。しかも、設定は一緒だが……? 物語のスタートと言ったところなのだけど、非常にオーソドックスな日常の謎ミステリとして、こういう作品なんだな、というのをまず印象付けてくれた。
一方で、2編目の『幻の追伸』は、既に死去した作家の間での手紙を発見。師弟関係であった二人であるが、その内容はもしかして……? しかし、手紙に使ったのは奇妙な改竄を施した原稿用紙……。
こう書くと、何かスキャンダルとかそういう方面を匂わせるし、勿論、美希もそれを考えるわけだけど、謎を解いてみると頓知のような要素を含めた暗号ミステリ。これもアリなのか……
個人的に印象に強く残ったのは4編目の『闇の吉原』。「夜の闇は吉原ばかり月夜かな」という文言について、なのだけど……
どこで切るのか、によって意味が全く異なってしまう。そして、それをどう解釈するのか、という問題が生まれてくる。また、ちょと一言を変えるだけで、味わいが全く異なる文章へと変化する。一応、謎は提示されているのだけど、それを解明するわけではなく、言葉の意味、内容を考察することそのものを題材にした作品。なんていうか……本作の探偵役である「お父さん」が国語教師である、という設定をフルに活かした物語になっていると感じた。……というか、著者自身が元はと言えば国語の教師だったわけで、そういう経験が活かされたエピソードなんじゃないかと思う。

No.4007

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  • 2016.04.30 (Sat) 20:47 | 日々の記録