(書評)スーツケースの半分は

著者:近藤史恵



30歳を目前にした真美は、ふと立ち寄ったフリーマーケットで、青いスーツケースに一目ぼれする。心配性な夫の存在もあり、ずっと行きたいと思っているニューヨーク旅行へ一人でも行く、という決意が固まって……(『ウサギ、旅に出る』)
から始まる連作短編集。
「幸福のスーツケース」というフレーズがついているんだけど、そんな特別なことが起こるというよりは、悩み、葛藤を抱えている主人公たちが、スーツケース、旅行がきっかけとなって吹っ切れる、という感じ。
冒頭にも書いた1編目の場合なんかは、まさに象徴的。昔から、ニューヨークに行きたいと思っていた。しかし、新婚旅行は「ゆっくりと出来ないから」と国内旅行へ。それはそれで良かったけど、でも……。一人旅がしたいと思っても、夫は心配して反対するし、自分自身、、英語は喋れないし……。それが、スーツケーキを手にしたことで吹っ切れて……
大学を卒業したものの就職難もあって、花恵が入ったのは清掃会社。「大学を出たのに……」と同居する両親は渋い顔をし、恋人とも両親が「学歴が……」と言ったことで別れてしまった。そんな彼女の楽しみは……(『三泊四日のシンデレラ』) このエピソードにしても、旅行に行く(=スーツケースを持つ)というのがきっかけ。その旅先で出会った思わぬ人物。彼の一言がきっかけになって……。こちらも、親の態度に反発を覚えつつも、しかし、実は同じような価値観も持っていた。それが、旅に出て、そこで出会った人物によって、それが断ち切れたその瞬間の心地よさが爽やか。
と言う感じで、皆、悩みとかを持っているのだけど、話のつなぎ方も好き。4編目では、嫌な相手に思えた栞。しかし、5編目で主役となると4編目とは裏腹の弱さが……。そして、それぞれが吹っ切れるという心地よさもあるし。
そんな物語の締めは、元々のスーツケースの持ち主の話(『青いスーツケース』)
割の良いアルバイトとして、和司が通うことになったのは、加奈子という老婆の手伝い。金に苦労している自分とは逆に、裕福な家で過ごす加奈子に反発も覚える。しかし、えらぶることは無く、和司のことを大事にしてくれる。そんな時にある事件が起きて……
このエピソード単独だとちょっと寂しい部分はある。でも、加奈子、そして、和司の人間性が、その後の幸運へ繋がったんじゃないか? という予感をさせてくれるエピソードになっている。

No.4012

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