(書評)花工房ノンノの秘密 死をささやく青い花

著者:深津十一



札幌の花屋「花工房ノンノ」で働く大学生の純平は、職場の忘年会で、幼いころ、ガス中毒事故で母を喪い、自分もまた臨死体験したことを話す。ところが、同僚である細井祥子は、純平が体験した臨死体験とそっくりな動画をネットで見たという。直後に消されてしまったその動画は一体何なのか? そして、自分の体験したのは何なのか?
著者のデビュー作『「童石」をめぐる奇妙な物語』は、殺人のような事件は起こらず、石をわると奇妙な出来事が起こる、という不可思議な物語なのだけど、本作も巻けず劣らず、不可思議な話にしあがっている。
物語は、冒頭に書いたような形で始まる。純平は、幼いころになくなった母について「ガス中毒によるもの」としか教えられていない。そして、父はそのことに触れると途端に機嫌を損ねてしまう。母は自殺したのか? それとも……。そんなとき、今度は、動画のことを教えてくれた細井さんが食中毒で意識不明になってしまう……
そんな感じで、乏しい情報から、もしかして? という疑惑を抱いていく前半の展開。そして、後半、探偵役として呼び出された前園の調子が良いけど、何か引き込まれる話術と薀蓄によって謎が解かれていく後半と非常にメリハリの効いた構成とリーダビリティの高さで、どんどん読み進めることができた。まず、これが第一の魅力。
二点目に印象的な謎。幼いころ主人公が見た臨死体験の光景。一面に広がる青い花という光景。ところが、その花は一瞬にして赤い花へと色が変化していく。想像するだけでも、すごくきれいな様子が思い浮かぶはず。そして、その光景がなぜ動画という形で残っているのか? という謎は、色彩的なインパクトも含めて魅力的。
最後に、探偵役たる前園の語る薀蓄の魅力。花屋が舞台となり、花とか、植物に関する話というのは多いのだけど、その中でも特に「なぜ、人間は花が好きなのか?」という問いに対する前園の考え、というのが面白い。結構、話そのものは脱線しつつ語られるのだけど、脱線なども含めて、こういう解釈もありじゃないか、と感じられて面白かった。
題材としては地味といえる作品ではある。でも、構成、作中で語る薀蓄。インパクトのある謎。こういうものでしっかりと読者の心をつかんで一気に読ませる、という作者の力量は見事の一言といえるだろう。

No.4041

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  • 花工房ノンノの秘密 死をささやく青い花 ≪あらすじ≫ 札幌の小さな花屋「花工房ノンノ」―ノンノはアイヌ語で花―で働く山下純平は、幼い頃に巻き込まれたガス中毒事故で母親を亡くしている。その際、純平が臨死体験で見た景色を、同僚の細井がある動画サイトで実際に見たことがあるという。それは青から赤に変化していく花畑の様子だった。二人はその動画サイトを検索するが、すでに削除さ...
  • 2016.06.02 (Thu) 20:55 | 刹那的虹色世界