(書評)吉祥寺の朝日奈くん

著者:中田永一



5つの恋愛模様を描いた短編集。
いきなり巻末の解説から、というのもどうかとは思うのだけど、女優・星野真理さんの文章の中に、その通りだな、と感じた部分があるので、まずはそれを引用したい。その文章と言うのは……
「この本に収録されている5つのお話、その登場人物たちは決して情熱的なセリフを言いません。その心のうちをはっきりと明かすこともありません。それでも彼らの気もちはわかります。いえ、それだからこそ強く伝わってくるのかも知れません」
これほど作品の雰囲気を端的に表した発言はないと思う。そう、ドラマとかにあるようなはっきりとしたやりとりで、ではなくて、何となく、の中で、でも心が動かされている。迷っている。想っている、そんな作品集なので。
ある意味、そんな雰囲気の導入編として機能しているのが1編目、『交換日記はじめました!』。タイトルの通り、交換日記の文章で、という形式で綴られる物語。当然、他人に見せることが前提の文章なので心情がすべて綴られるわけではない。でも、その中での人間関係の交錯というのはなかなか読ませる。……もっとも、日記があっち行ったり、こっち行ったりと、ちょっと設定に無理も感じるけど。
三角関係というとドロドロな印象もあるけど、爽やかな感じに綴ったのが『三角形はこわさないでおく』。廉太郎とツトム、そして、小山内さん。ちょっとした中で出会い、相手のことを思いやって……の三角形。ラノベとかでも、こういうテーマの作品は多くあるのだけど、煮え切らない、ではなく、一番、良い状態を保つために、という終わり方もアリなのか、と目から鱗。
話としての捻り方とか、そういう点で、著者の別名義っぽさを感じるのは、表題作。常連となっている喫茶店で働く彼女・山田真野。夫、子がいる、という彼女との距離はどんどん縮まっていくが……
終わってみると、確かに伏線は色々と用意されていた。でも、「恋愛模様」とか、そういうところばかりが頭にあって、すっかり盲点になっていた。読み終わっての感じとして、苦いところもあるのだけど、そういうのも含めて、ある意味では「恋愛」らしさ、なのかな? とも思ったり……

No.4068

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