(書評)ハーメルンの誘拐魔

著者:中山七里



病院からの帰り道、記憶障害を抱えた15歳の少女が母親と離れた僅かの瞬間に行方をくらませた。そして、その現場には、「ハーメルンの笛吹き男」を描いた絵葉書が……。ただの失踪か、それとも誘拐か? どちらとも言えないまま時間が経過する中、少女の母親は、記憶障害は子宮頸がんワクチンによるものではないか? という告発のブログを書いていた。そんなとき、今度は、子宮頸がんワクチンを推奨する団体の会長の娘が失踪し、同じカードが現場に……
うーん……
著者の作品はデビュー作から、一応、ほぼ全てを追いかけているのだけど、最近、凄く思うことがある。それは、著者は魅力的な謎を提示し、そして、表現力の高さから、読者を物語へと引き込む技術は素晴らしい。その一方で、社会問題とか、そういうものについて、かなり断片的な、独善的なものの捉え方をしてしまう傾向があるのではないか、ということ。本書は、まさに、その傾向が双方について出てしまったように思う。
魅力的な謎。その牽引力で引き込む技術。これについては、本作も文句なし。
冒頭、記憶障害を抱えた少女が失踪した、という事件。何もない、無垢な母子が……というところから、しかし、その母親は、医療関係者を告発するようなことをWEB上で書いていた。それが原因では? と思ったら、今度は、反対の立場に近い少女が……。しかも、絵葉書は残しても、身代金などの要求はしない。何者かがやったのでは、と思わせつつも、しかし、狙いも何もわからない。その謎の牽引力は相当なものと言えよう。
……が、一方で社会問題を扱った、という意味では非常に短絡的で薄っぺらい。
子宮頸がんワクチンについては、確かに健康被害を訴える人が多く居るし、疑わしい部分が多いのは事実。ただ、健康被害がすべてそのせいか、という部分については何とも言えない。医者や研究者だって一枚岩ではないだろうし、多くは試行錯誤の中で「とりあえず、これが良いのではないか?」というところを模索しているはずである。しかし、本書では、そういう中間層がなく、陰謀論的な話に摩り替えられる青臭さが気持ち悪い。
結論として方向性があるのは別にいいのであるが、様々な意見をぶつけてバランスを取ろう、という意識が全く感じられない社会問題提起は単純に気持ちが悪いと思わざるを得なかった。

No.4070

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