(書評)蜃気楼の犬

著者;呉勝浩



県警本部捜査一課に所属する刑事・番場は、二周り離れた身重のコヨリを愛するベテラン刑事。新米刑事の船越とコンビを組み、事件に挑んでいく……という連作短編集。全5編を収録。
これまでの2作は長編作品。謎の提示は良かったものの、冗長になったり、ややその回収に不満があった著者。今回は短編になったことで、そういうところが大分軽減されたように思う。しかも、結構、バラエティに富んだ謎の提示があるし。
1編目。マンションの一室でバラバラ状態で発見された若い女性。しかし、そこには別人の指が。被害者女性の周辺を探ると、その日は、同じような年頃の女性と共におり、その女性と何やら言い争っていた。果たして……。バラバラ殺人という謎と、被害者は何者なのか? という部分で上手くひきつけられた。まぁ、その理由で、事件を起こすか? という部分はあるにせよ……
2編目。ビルから飛び降りて死亡したノミ行為を行っていた男。覚醒剤を使用しており、それを使用しての自殺、もしくは、事故と思われたが、それにしてはビルからの距離が離れすぎている。ということで、こちらは物理トリックの物語、これも、結構、無理があるような気がしないではないのだけど、その中での番場と船越のやり取りなどを挟むことでうまくカバーしていると思う。
で、そのような中で起こる、最終話である表題作。交差点で起こった無差別かとも思えるライフルによる狙撃事件。県警にとって、前代未聞の事件に周囲が騒然とする中、番場の妻は、番場の傍を離れる。そして、そんな番場の元に、県警OBによるものではないか? という情報が入る……
それまで、鋭い観察眼で謎を解いてきた番場にとって、妻がいない、そして、犯人は恩師とも言える存在? という二重の苦境。そのような中で、「少年」と頼りない印象を抱いてきた相棒・船越が成長を見せる……
先に書いたように、猟奇事件とか、はたまた、物理トリックだったり、とバラエティに富んだ「本格モノ」のテイストで描きつつ、最終的には、番場にとっての「正義」。そして、船越の成長というところに落とすことで、「警察小説」としての後味に変換させる作り方は素直に上手い。といいつつ、最終話も、なぜ交差点にいる相手を狙撃したのか? という謎を論理的に解明する本格モノの味わいも残しているし。
これまでの作品の中では一番面白かった。

No.4091

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