(書評)難民調査官

著者:下村敦史



東京入国管理局で働く怜奈。補佐官の高杉と共に、難民申請をした外国人が、本当に迫害される可能性があるのか? 供述に嘘がないのか? そんなことを聞き取り調査する日々を過ごしている。そんなある日、ムスタファというクルド人男性が、ドバイから合法的に入国したにも関わらず、パスポートを処分し、密入国者を装っていたことを知る。一方、ネット難民として過ごしつつ、密入国者の通報を繰り返す西嶋は、現在、難民申請中だという母子と知り合い……
タイトルから分かるように、テーマは難民(難民申請) ここ数年、毎年のように難民申請をする外国人が増加。しかし、その中で、実際に難民として認められるのは数十名程度(その背景には『叛徒』のテーマだった技能実習生制度などの問題もある)。そんな状況を描きつつ、というミステリ作品。……なのだけど、本作の場合、いきなり「これがメインの謎です!」というのが提示され、そこを調べる中で色々なテーマについての問題を綴る、というタイプの作品とは趣を異にしている。
物語のきっかけは、かすかな違和感。密入国者として捕まったムスタファの言動には何かを隠している節がある。そして、調べると正規の手続きで入国した者であったことが分かる。勿論、それでも旅券切れなどで、ということがあり、申請を打ち切り、強制送還でも良いはず。しかし、スッキリしない。なので、調べる中で、怜奈の元へやってくるのは上からの圧力であり、そして、公安であり……
最終的に判明する真相によって、物語の構図が完全にひっくり返るあたりの手腕はデビュー作に近いのだけど、本作の場合、それこそが、難民申請の難しさを示す、という形に持っていっているのが味なのだろう。
難民を多く受け入れる。それは、世界的な視線から見れば「善良なこと」。しかし、その負担は国、そして、その国民にのしかかる。まして、テロリストが混じるリスクも当然に含んでいる。さらに、言葉の定義の問題。帰国すれば、迫害を受ける危険性がある。では、その迫害とは何か? 誰がどう判断するのか? 実際には、迫害、差別があるがそれが知られていない場合は? だんだんと大掛かりになっていく物語の中で、ムスタファの行動の違和感が、そんなテーマを通して最終的に、ピッタリとピースにはまった時の快感はなかなかのもの。
まぁ、本作で出てきた外交上の取引とか、そのあたりはちょっと荒唐無稽にも感じたけど、それを差し引くとしてもなかかな面白かった。

No.4112

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