(書評)人魚の眠る家

著者:東野圭吾



娘の小学校受験が終わったら離婚する。表面上は幸せを装っていた仮面夫婦の和昌と薫子。そんな二人の下へ届いたのは、娘がプールで溺れ心配停止状態になった、というもの。医師は、事実上、脳死と同じ状態にある、というもの。ドナーとするのであれば、脳死判定をし、そうでないなら、延命措置を取る。そんな医師の言葉に二人が下した決断は……
著者って言うと、第一線のミステリ作家。本作も……と思ったら、本作には殺人や強盗など、刑法犯罪は発生しない。そして、物語のテーマは、ずばり、「脳死」。
最初に物語の設定を言うと、和昌は、会社社長。その会社は、脳波などを研究し、障害者の活動、介助支援を行うという業務、一度は、娘が脳死、という決断を仕掛けたが、土壇場でそれを撤回。和昌の会社の技術を使い、娘の回復を目指す。そして、薫子は、そんな娘の回復にすべての情熱を傾けていって……
「脳死」。言葉としてインパクトはある。しかし、脳死と判定されるには、「脳死判定」がされねばならない。そして、そのためには、臓器移植のドナーとなることを本人、もしくは家族が承知せねばならない。それをしない限りは、「脳死状態」であっても、従来の「心臓死」の基準によって「活きている」とみなされる。子供の臓器移植のために突貫的に作られたルールの中途半端さ……
医療の力、技術の力により、心臓死はしない。そして、筋肉も衰えることなく、身長なども伸びている。見た目はまるで、普通の子供が眠っているだけ。そもそも、脳はわからないことだらけ。だから、「もしかしたら」という気持ちがないわけではない。しかし、明らかに常軌を逸した状況へと進んでいく薫子の情熱。当初はともかく、だんだんと、そこから距離を置くようになっていく周辺。
この手のテーマの作品だと、色々と周辺情報を手にいれ、様々な立場の人間を登場させ、そして、その中でルールが中途半端だ、とか、そういう議論を進めていくのが一般的。ところが、本作の場合、本当にシンプルに、事実上、脳死状態と思われる娘の看護、介助、それだけを描きながら、そこでその中途半端さを浮き彫りにしたところが最大の凄さだろう。
物語の中心にあるテーマ性。そして、それをシンプルな設定で読ませる著者の腕。双方がしっかりとかみ合っていなければ、決して、このような読後感にはならなかったのではないかと思う。偉そうな言い方だけど、久々に著者の作品で「大当たり」と感じた作品。

No.4115

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COMMENT 2

苗坊  2016, 08. 18 [Thu] 13:33

こんにちは。
薫子のしていることは、賛成はできないですが反対も出来ないですよね。まさに中途半端さが表れている作品だったと思います。
出てくる人たちがいろんな意見を出していますが、どれも正解であり不正解のような気もして。「脳死」というのはまだ現代ではきちんと解明されていないのだなということを再認識した気がします。
読み終わった後も余韻の残る作品でした。「大当たり」だったと思います^^

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たこやき  2016, 08. 24 [Wed] 00:32

苗坊さんへ

こんばんは。

>薫子のしていることは、賛成はできないですが反対も出来ないですよね

まさにその通りだと思います。
実際、狂気そのものではあるんですよね。でも、いざ、自分の娘が……となれば、理解できなくもない、という感じがしますし……

よく、葬式は生き残った人が諦める時間、とか、色々なことが言われますけど、臓器移植を選べば脳死として処理され、選ばないなら……
脳についての研究がまだまだ発展途上、ということも含めて、狂気ではあるものの、理解も出来る。そんな話に仕上げてくるのは流石だと思います。

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