(書評)真実の10メートル手前

著者:米澤穂信



太刀洗万智を探偵役としる連作短編集シリーズ。全6編を収録。
丁度、この前に読んだ著者の作品『王とサーカス』に続いて、2作連続で太刀洗万智が、ということでシリーズ化した、ということになるのかな? と思う。ただ、結構、作品のカラーはバラバラと感じる。
1編目に当たる表題作。
急成長を遂げたものの、半ば詐欺的な投資商法の結果、経営破綻したベンチャー企業。その社長・早坂一太の妹で、広報担当として活躍し、破綻した現在は行方不明になった真理を追うことに。ヒントは、末の妹との最後の会話……
会話の中の、何気ない言葉をヒントとして捉え、一歩、また一歩と真理の足取りを追っていく万智の推理力が光る1編。まあ、「うどんみたいなのを食べた」で山梨の「ほうとう」だろうな、くらいはわかったんだけど。ただ……その結果は……。順調に迫っているかのように思える進展を見せるからこその、苦すぎる結末は印象的。
悪意という意味では、3編目『恋累心中』。自殺したと報道される高校生の男女。そこに隠された真相……
二つの事件が同時進行的に出てくるので、そこが関係しているのだろう、というのはわかったし、そこからある程度は予測できた。ただ……そのために、純粋な少年の心を利用する悪意というのは何よりも強烈。しかし、このエピソードのように、同業者の視点で綴られると、万智自身が冷徹にも見えてくる。ほかのエピソードを見ると、決して、そんな人間でないのはわかるのだけど。
『王とサーカス』のように、報道というようなものの意義を問うのが『綱渡りの成功例』。
大雨による土砂災害。多くの犠牲者が出たこの災害で、数少ない明るい話題と言えば、その中で完全に孤立してしまった老夫婦が無事に救助された、ということ。そして、その救助の影で、息子が買っていたコーンフレークが夫婦の命を救ったと美談としてメディアは語る。しかし、太刀洗万智は、その美談に疑問を抱いて……
歯が弱かったため、牛乳でふやかしてコーンフレークを食べていた、という夫妻。しかし、災害時、電気は通じておらず、当然、それでは牛乳も……。その真実は……
ある意味、不都合な真実。それを報じられることにより、本人は傷つき、名誉やらもなくなるかも知れない。しかし、ではそれを守るために真実を隠蔽することは幸せなのか? 明かされることで、罪の意識を解消できることもある。何が人を救うのか? そんなことを考えさせられる。

No.4122

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