(書評)海の見える理髪店

著者:荻原浩



有名俳優や大物政治家が通ったという伝説の床屋。海沿いに店を構えるそこへ、最初で最後の予約を入れた僕は、久々に床屋で散髪をする。店主の昔話を聞きながら……(『海の見える理髪店』) など、全6編を収録した短編集。
第155回直木賞受賞作。
表題作については、このコメントがネタバレになってしまう気がするが、「家族」そして「人生」取ったものがテーマになっているように感じる。
表題作については、これ以上言わない。
2編目『いつか来た道』。一応、個展などを開いてはいるが、しかし、それで生活をすることが出来なかった母。母は、私と亡くなった姉に、自らの夢を託すように絵を教え込んだ。しかし、期待に応えられるような才能を持っていなかった私は……
自分のかなえられなかった夢を子供に。ある意味、お約束のパターン。しかも、美大に入れないと知るや、母は掌を返したように自らに対して振舞う。不満と怒り、その中で疎遠となっていた私が久々に母と会う。車椅子生活とは言え、態度は昔と全く変わらない。かつての不満がくすぶる中、知った事実……。タイトルは『いつか来た道』なのだけど、ある意味では『いつか来る道』にも見える。表題作もそうなのだけど、現代パートのちょっとたやりとりと過去を通し、その人物の人生そのものが見える。
ただ、序盤の2編については、著者にしては随分と綺麗にまとめた話を書いてきたな、と言う感じがある。
テーマは似ているけど、いつもの著者らしさも感じて好きなのは5編目『時のない時計』。仕事をやめ、時間のある私は、亡くなった父の形見である腕時計を時計店で修理してもらうことに。そこには数々の時計があり、既に動かないものも。その動かない時計などを通して、店主の人生を、そして、父、私自身の人生を考える。
今、何時なのかを知る。時計ってどのための道具。けれども、時の止まった時計、と言うのはある意味、その時を切り取った存在。大事なことがあった時間で止まった時計は、それを見ることでその大事なことを何度も思い出す。そんなことを思い出しながら店主が最後に告げた一言。それもまた父らしい、というのが良い味になっている。
全体を通して綺麗な作風に纏め上げた感じはする。これはこれでいいのだけど、著者の作品ってもっと笑いをとる作品とかもあるから、これが直木賞受賞作で、代表作と言われると「?」って感じがすることになりそう。

No.4133

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