(書評)エムブリヲ寄譚

著者:山白朝子



庶民が寺社参詣や湯治に出かけるようになった時代。各地を旅し、その旅本を描いて小銭を稼ぐ作家・和泉蝋庵。何もないところでも、道に迷ってしまう彼と共に旅をする者は、そのせいで常に災厄に見舞われてしまう。そんな不可思議な出来事を綴った連作短編集。全9編を収録。
著者の(名義の)デビュー作『死者のための音楽』は、それぞれ独立した短編集。色々、バラバラな世界観で翻弄されたものの、統一感がなく、読みづらいと感じる部分もあった。本作も、それぞれの話はかなりぶっ飛んだもの。江戸時代が舞台なのに、タイトルにあるように「エムブリヲ」とか、外国語的な言葉が当然に出るなど、かなりぶっ飛んでる。でも、蝋庵、そして、主に彼と旅をする耳彦というキャラクターにより、不思議と統一性を持たせるのがこの作品の味なのだろう。
1編目に当たる表題作。旅の最中、川沿いで奇妙なものを拾う。人間の胎児、「エンブリヲ」であるが、それはまだ生きていた。死んだら、埋葬してやろう、と決めるのだが、ずっと生き続ける。博打で借金を作った耳彦は、それを見世物として興行を行うのだが……
導入編、ということになるのだけど、不思議な話というよりも、耳彦の人間性。そして、折角の「見世物」がありつつも楽にならない、というところが変則的。意外と、おかしなところから始まった、という感じを受けるエピソード。
旅先で非常に大きな「刎橋」を見かけた蝋庵と耳彦。ところが、その橋は40年近く前、多くの死者を出して崩壊したという。そんな中、耳彦は、そこで息子を喪った、という老婆に出会い、その息子に会うため、夜の橋へ向かうが……(『あるはずのない橋』)
その橋を渡ると戻ってこれない、という橋。そこで無事、老婆の息子に出会うが、そこで待っていたのは……。死んだ者、残された者の想い、っていうのは定番。でも、そこに巻き込まれた耳彦は……災難であり、同時に、必死にならざるを得ないよな、と感じる読後感になるのは、著者らしい切り口。
最近、こんなテーマの作品を読むことが多いな、という題材の『地獄』。コレに関しては、何も言わない。想像するだけで「地獄」だよな……と、だけ。
そして、そんな中で、色々な余韻を残す最後の『「さあ行こう」と少年は言った」。密室状態の蔵に閉じ込められた女性。そこに現れる少年。不思議な話、と言う意味では、この話が一番。そして、この少年は恐らく……。その意味では、世界観をまとめている、とも言えるのだろう。

No.4137

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