(書評)スパイは楽園に戯れる

著者:五條瑛



「世の中のためになる人間になれ」 幼い頃に出会った男の言葉に触発された男は、やがて気鋭の政治家として活躍する。一方、「会社」の末端に位置する情報分析官・葉山は北の将軍の子とも言われる男・ヨハンについての調査を命じられる。胡散臭い情報から、葉山がたどり着いた先は……。
忘れた頃にひょっこりと刊行される葉山シリーズ。……一般には「鉱物シリーズ」と言われることの方が多いのだろうけど、1作目、2作目の『プラチナ・ビーズ』、『スリー・アゲーツ』はともかく、そこから先の『動物園で逢いましょう』、そして、本作と鉱物がタイトルにつかなくなったし……。と同時に出版社が集英社から、双葉社に変わって、ちょっとライトな感じになった印象。
物語は2つの視点で描かれる。1つ目は、このシリーズの主人公である葉山。冒頭に書いたように、北の将軍の子とも噂されるヨハンという男の調査から始まる。マカオのカジノで豪遊する放蕩息子。しかし、政治体制の変化の中で何年もその音沙汰は不明。そんな彼が亡命工作? 胡散臭く思いつつも、ヨハンについて調べ、その周辺へと手を伸ばしながら……
もう一方が、元高給官僚であり、やはり情報分析の末端にいる仲上。彼は、現在、気鋭の政治家と呼ばれて注目される涌井から、カンという男についての調査を依頼される。そして、その男は、涌井にとってのルーツとも繋がる……
二人の調査員。スタート地点が異なるため、当然、見えているものも異なる。そして、涌井の出生の秘密。風俗嬢の子であり、しかも、父親は外国の大物工作員。そんな男が、政治家として訴えるのはスパイ防止法の制定。ある意味では、自らの出生の秘密と言う爆弾ではあるが、しかし、彼はそんな出生の秘密すらをも「国のために」利用しようとする。
とにかく、この政治家・涌井が格好良い。仲上視点で、芯があり、しかも、純粋で真面目。そんな風に言われるのだけど、まさにそんな感じ。しかし、だからこそ、「心配」という仲上の想いは……
恐らく、工作員であった父の言葉と言うのは、ただの戯れ。しかし、大物であるが故に実行しようとする者がいた。それも、「工作員」としてのやり方で。そんな裏の存在を知り、「関係を絶つ」決意を固めた涌井が取ったのは……
先に書いたように、過去の長編2作と比べるとライトな展開。しかも、こういうと何だけど、中盤までは着地点が良くわからなくて、っていう部分もあった。しかし、終盤、涌井についてつながり始めたところからスピードアップし、ラストの手紙は……。仲上じゃないけど、その純粋さに泣きたくなった。

No.4156

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