(書評)向田理髪店

著者:奥田英朗



北海道の内陸部。かつては炭鉱の町として栄えたが、閉山後、人口減少に歯止めがかからず、町そのものも財政破綻してしまった苫沢。そんな町に2軒しかない理髪店・向田理髪店を営む康彦。自分の代でこの店も終わりかな、と思っていたとき、札幌で就職した息子の和昌が、苫沢に戻り、後を継ぐと言い出して……(『向田理髪店』)
を初めとして、向田理髪店の店主・康彦の視点でつづられる連作短編集。全6編を収録。
舞台のイメージとしては夕張市あたりをモデルにしているのかな? という設定。ただ、「財政破綻」というような極端なことはなくとも、日本の多くの地方に居住経験がある人は、「そうなんだよな」と思うところがあるのではないかと思う。
……自分、思い切り、そうなんだよな、と共感したもの(笑)
冒頭に書いた表題作のエピソード。息子が店を継ぎたいという。決して嬉しくないわけではない。しかし、客は常連ばかりで、しかも高齢者ばかり。先細りは目に見えている。いや、既に先細りしている最中にある。わざわざ、そんな店を継がなくても……。しかも、その際に、息子はカフェを併設する形にしたいと夢を語る。そんな無茶な! しかし、そんな息子の意見に、東京から出向してきた役場の人間・佐々木は賛成をする。そんな夢物語が通用する訳がない。これまでだって……
ある意味、康彦の意見と言うのは、現状維持しか出来ない老人の意見なのだろうと思う。でも、その康彦の言うように、「これを作って、観光客を呼びます!」とか、そんなのをやっては色々と失敗して……ってのを繰り返してきた歴史がある。それを知っている身として、どうにもネガティヴに捉えてしまうというのはある。
町に中国人の嫁が来たというその名も『中国人の花嫁』。中国から嫁を貰った。それ自体もさることながら、20代半ばくらいになると常に周辺から「結婚は?」といわれ続ける。本来、個人の自由のはずなのに。そして、結婚をしたらしたで、披露しろだの何だのといわれ、しかも、慣習だの何だのでその中身は勝手に話が進んでしまう。このエピソードの花嫁の場合、良くも悪くも、こういう世界に慣れていて、っていうのがあるけど、それが逆に田舎へ嫁が来ることを拒むんだろうというの感じる。
そんな中で、異質なのが、最後のエピソード『逃亡者』。町でも一番の秀才で、東京の大学を出て、そちらで起業したはずの青年が振り込め詐欺のリーダーとして指名手配された。もしかしたら戻ってくるのでは? そんな緊張感と押し寄せる報道関係者。
どちらかと言うと、ネガティヴな印象を感じさせる描き方をしたけど、決して見捨てない、という形での終了。なんか、最後の最後に妙に綺麗にまとめた印象になってしまったけど、物語なんだし、これはこれで良いか。

No.4173

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